新型コロナで「4000%超」の収益を得た覇者の正体 「ブラック・スワン」を制した「カオスの帝王」

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トレーダー以外の職業は考えられなかったスピッツナーゲルは、2007年にユニバーサで同じ戦略を再起動させ、改良を重ねた。ユニバーサのシニア・サイエンティフィック・アドバイザーの肩書を持っていたタレブは日々の業務には一切関わらなかった。そのかわり、同社は裕福な投資家の関心を惹きつけるために世界的に著名な作家・思想家としての彼の名声を利用した。

顧客をブラック・スワンから守る

2008年の世界金融危機をはじめ、2010年のフラッシュ・クラッシュ、2011年の米国債格下げ、1週間足らずで10億ドル稼いだ2015年の突発的な市場暴落や、2018年のいわゆるボルマゲドンのようにボラティリティが大きく上昇する局面で、ユニバーサは富を築いてきた。この戦略をユニバーサはブラック・スワン・プロテクション・プロトコルと呼んだ。プロトコルの目標は、顧客の投資家をブラック・スワンから守ることである。

2020年3月に市場と世界経済を待ち受けていると思われたのは究極のブラック・スワン─1930年代の大恐慌以来の厄災だった。労働者とその家族が自宅に身を潜めると、各国経済は軋みを上げてストップした。数百万人のアメリカ人が突如として職を失った。3月半ばには株式から債券やコモディティに至るまで、あらゆるものの価値が急落していった。

3月16日、混乱が香港からヨーロッパへ、さらにアメリカへと波及するなか、スピッツナーゲルがノースポイントから市場の破綻を追う一方で、ユニバーサのトレーダーたちは徹夜で同社のポジションのマネジメントを続けた。月曜の朝、午前5時頃に数人のシニアトレーダーがオフィスに到着した。室内には穏やかなバッハのカンタータの調べが流れていた。

他の社員はパンデミックの際の就業規則に従い、自宅で勤務した。16人のプログラマーとトレーダー─博士号取得者、コンピュータの専門家、数学者─で構成されるユニバーサのチームは疲れ切っていた。だが休んでいる暇はなかった。波乱の取引開始を乗り切った後、スピッツナーゲルは自家用機に飛び乗ってミシガン州の自宅に近い草地の滑走路から離陸した。午後にはもう、マイアミ市街とその向こうに広がるビスケーン湾のエメラルドグリーンの海を望む、壁一面の窓のそばにしつらえたデスクについていた。

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