新型コロナで「4000%超」の収益を得た覇者の正体 「ブラック・スワン」を制した「カオスの帝王」

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ダウが1日で22.6%下落した1987年10月のブラックマンデーで、彼は大儲けした。スピッツナーゲルと同じように、彼は90年代の金融破綻をすべてまのあたりにしてきた─1994年のカリフォルニア州オレンジ郡の財政破綻、通貨下落に端を発した1997年のアジア通貨危機、(他にもあったが特に)ロシア国債に大きく判断を誤ったポジションを取った大手ヘッジファンド、ロングタームキャピタルマネジメントの1998年の破綻。

こうした危機をタレブはブラック・スワンと呼び始めた。ブラック・スワンとは、(突然の市場暴落のように)誰にも予測できなかった極端な事象を指す。昔ヨーロッパ人はスワンはすべて白いものだと思っていたが、その後オーストラリアで黒いスワンが発見された。ブラック・スワンは従来の枠組みから外れた存在、あらゆる既知のカテゴリーや想定を超えた存在である。

1999年の時点ではこれは理論にすぎなかった。タレブとスピッツナーゲルはこの理論を実地に試すために、暴落から巨額の利益を上げるように設計したヘッジファンド、エンピリカを立ち上げた。

2人は自分たちを危機の狩人と呼んだ。エンピリカは史上初の究極のベア型ファンド〔訳注 下げ相場で利益を出す仕組みのファンド〕だった。他のトレーディング会社がほぼすべてブル市場〔上げ相場〕で利益を出していたのとは異なり、エンピリカは熊が洞穴からうなり声を上げて出てきたときにだけ利益を上げる。同社は毎日、株式が急落したときに巨額の利益を上げるポジションを買った。通常は少額の損が出る取引である。市場が暴落しなければ、この取引は価値を生まないからだ。

しかしいざ市場が暴落したとき、エンピリカのポジションにはとてつもない価値が生じた。

タレブはベストセラー作家に

タレブとスピッツナーゲルは2004年にエンピリカを畳んだ。タレブがヘッジファンドの運営に神経をすり減らす日々に嫌気がさしたのと、初めて一般読者向けに書いた著書『まぐれ─投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』(望月衛訳、ダイヤモンド社、2008年)の成功で執筆に専念したくなったことが理由の1つだった(タレブは1990年代にトレーディングの専門書『ダイナミック・ヘッジング(Dynamic Hedging)』を書いている)。

次ページブラック・スワン・プロテクション
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事