新型コロナで「4000%超」の収益を得た覇者の正体 「ブラック・スワン」を制した「カオスの帝王」

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1980年代にシカゴ商品先物取引所の立会場の喧噪に魅せられた16歳の頃から、こんなときのために備えてきた。牧師の息子として生まれたスピッツナーゲルは、ジュリアード音楽院への進学が決まり前途有望だった音楽家のキャリアを捨て、コモディティトレーダーになる道を選んだ。

シカゴ商品先物取引所の下っ端から叩き上げてニューヨークの金融機関の上級職になり、やがて1999年にエンピリカ・キャピタルという最先端のヘッジファンドの立ち上げに参画した。スピッツナーゲルはトレーダーになるために生まれてきたような男だった。2020年3月に世界中の市場が大混乱に陥っても、彼はまったく動じなかった。

厄災に備える

ユニバーサの本社はマイアミのココナッツグローブにある海に面した高層ビルの20階に入っている。そこにいる小所帯のトレーダーチームと社内通話装置で連絡を取り合いながら、スピッツナーゲルは混乱から利益を上げる設計にしてある精密に調整した自社のポジションを監視していた。

スコット・パタースン氏
スコット・パタースン氏(写真:NHK)。同氏も出演する「BSスペシャル 欲望の資本主義2024夏特別編 実感なき株高の謎」は、NHK BSにて2024年7月11日23:25~放送予定

彼は崩壊していく市場を畏怖しつつ魅入られるように見ていた。世界中にいる顧客のために43億ドル相当のリスクを管理するユニバーサは、こんな厄災に備えて何年も前から態勢を整えてきたのだ。

やせ型で背が高く、生え際の後退した髪を剃り上げたスピッツナーゲルは、ユニバーサの創業者兼チーフアーキテクトだった。ユニバーサは、スピッツナーゲルが長年の相棒であるナシーム・ニコラス・タレブとともに1990年代後半にエンピリカで考案した戦略を引き継いだトレーディング・マシンだった。

レバノン系アメリカ人の逆張り投資家で数学者のタレブはその後、『ブラック・スワン─不確実性とリスクの本質』(望月衛訳、ダイヤモンド社、2009年)や『反脆弱性─不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』(望月衛監訳/千葉敏生訳、ダイヤモンド社、2017年)などの著書がベストセラーリストの1位を飾り、世界的に名を知られる作家になった。

エンピリカを立ち上げた当時、タレブはデリバティブという複雑な金融商品のトレーディング経験を持ちニューヨーク大学で金融工学を教える無名の教授だった。彼は金融市場と金融機関が多くの人が考えるよりもはるかに大きなリスクを抱えていると確信するようになった。

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