新型コロナで「4000%超」の収益を得た覇者の正体 「ブラック・スワン」を制した「カオスの帝王」

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「忘れるなよ、我々は海賊だ! 海軍じゃない!」。スティーブ・ジョブズのセリフ(「海軍に入るより海賊になるほうがいい」)を借用して、彼は時おりデリバティブ・トレーダーの精鋭チームに発破をかけた。

新型コロナは世界の金融システムを激震させた。ダウ工業株平均はこの日13%と、1987年のブラックマンデー以来2番目に大きい1日の下落幅を記録した。債券市場はまったく動かなかった。マネー・マーケット・ファンドからは史上最多の資金が流出した。個人投資家は大やけどを負った。ウォール街のベテランたちもこれほどの惨状は見たことがなかった――世界金融危機のときでさえ。

シティグループの短期信用部門長アダム・ロロスは『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙にこう語った。「2008年の金融危機が自動車事故をスローモーションで見るようだったとすれば、今回のは『ドカン!』。一瞬でした」。

翌週は、頭を揺さぶられるようなボラティリティに市場が翻弄されるなか、小所帯のユニバーサのトレーダーたちはほとんど眠らなかった。多くの者はオフィスのソファかホームオフィスで2、3時間の仮眠を取るとすぐに起きてコーヒーを流し込み、粛々と多額の利益をかき集めた。

「こんな収益率はありえない」

スピッツナーゲルとトレーダーチームの目の前で、投資資産はロケットのように垂直上昇していった。3月末までには、ユニバーサのブラック・スワン・プロテクション・プロトコル・ファンドは3カ月の収益率4144%以上という驚くべき数字を叩き出していた。スピッツナーゲルの約5000万ドルの投資は、予想を超える30億ドル弱もの利益を瞬時に生み出した。

収益率があまりに莫大だったため、一部の専門家は懐疑的だった。こんな収益率はありえないと言う者もいた。ウォール街で長年リスクマネージャーをしてきたアーロン・ブラウン――ナシーム・タレブの旧来の友人でもある─―は、ユニバーサが暴落に対して投機的な行動を取っているのではないかと疑った。

つまり、スピッツナーゲルが混乱の気配をかぎつけるやユニバーサのポジションに資金を注ぎ込んで膨らませ、収益率を引き上げているのではないか、という意味だ。スピッツナーゲルはユニバーサは絶対に投機はしないと言った。市場で何が起ころうと、ユニバーサは顧客のために常に同じ暴落保護策を維持し、投資戦略をいじり回すことはない。

ブラウンはあまり信じていなかった。

次ページ他と比べて成績があまりに良すぎる
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事