【産業天気図・パルプ/紙】春の値上げは目標未達。原燃料も一段高で「通期曇り」に変更
前回3月特集では、各社が当時取り組んでいた主要印刷用紙の値上げが徐々に浸透すると見込み、上期までは「曇り」が続いても、下期は「晴れ」に転じると予測していた。しかし、春の洋紙値上げはユーザーの抵抗が強く、実際には目標の6~7割程度で決着。その一方では原燃料、特に原油が前期に比べ一段と高騰しているなど、予想の前提が悪化してきた。各社、秋に洋紙を再値上げして春の未達分を補う意向であり、また最近になって消耗戦状態の家庭用紙についても大手から値上げ方針が相次いで表明されたのは新たなプラス材料だが、実現性が不透明なうえ、仮に一定程度実現しても浸透には時間がかかる。このため今回、下期も「曇り」が続くと改めた。
洋紙、板紙とも足元の業況は堅調だ。板紙は景気回復を背景に春の値上げがほぼ満額通った模様で、相変わらず強含み。洋紙も、牽引役である塗工紙の主力品種A2に若干の需給の緩みこそあれ、「薄物」と言われるA3(軽量コート)や微塗工紙は「在庫ゼロのメーカーもあるほど」と業界筋。総じて、日本製紙連合会が年初に出した2006年の紙・板紙需要予測(前年比0.2%増の計3196万トン)は上回る公算が大きい。
コスト面では、上記の原燃料高が懸念材料だが、目下の円高は原燃料を輸入に頼る紙パ各社には追い風。「今の程度の原燃料高なら、大半を円高効果で吸収できる」(大手製紙役員)などの声もあり、コストダウン努力も加わる結果、大手各社が期初に打ち出した「微増収・微増益」の今期シナリオはまだ、達成困難という状況ではない。
とはいえ、中長期に見て業界全体の不安要因となりうる大きな話題が5月、遂に浮上した。日本製紙グループ本社<3893.東証>と北越製紙<3865.東証>が、相次いで大型塗工紙設備の新設計画を発表したのだ。日本製紙は年35万トン規模の薄物コート紙設備を07年11月に稼働。北越も同じ35万トン規模の軽量コート紙設備を08年末に稼働させる。業界ではすでに、大王製紙<3880.東証>が昨夏、コート紙や微塗工紙など29万トン設備を07年度中に稼働させると表明しており、3社合わせて100万トンもの能力増となる。3社とも並行して既存設備の停機等を行うといい、市況に配慮する姿勢を強調しているが、「100万トンともなれば国内だけではさばき切れず、一部を海外市場に出しても国内市況はどうしても緩む」(大手幹部)。今以上の激しい競争となるのは必至だ。また、これらの大増設競争に追随するならば、少なくとも500億~800億円の資金が必要。今回の増設競争によって先頭集団と後続組の2極分化が一層進むのは避けられない。
なお、3社の国内大増設表明の結果、中国での大規模計画(印刷用紙120万トン)を抱えつつも、同国政府からの許認可が想定より大幅に遅れている王子製紙<3861.東証>の“出遅れ”感が逆に強まってきた。王子サイドは計画堅持のスタンスだが、「王子が秋にも国内での大規模スクラップ&ビルドを表明するのではないか」(業界筋)との観測も流れ始めている。
【内田史信記者】
(株)東洋経済新報社 会社四季報速報プラス編集部
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