僕が面接で「超優秀な学生」を見抜けなかった後悔 就活生に教わった「社会人として最強の能力」

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思わず、「新田明男かよ」と言いたくなった。

マンガ『タッチ』に登場する強打者の新田は、ここぞというときにホームランを打つ。監督からも「わしが心底打ってほしいと願う場面での新田は10割なんだ」と恐れられていた。新田明男のような人物はそうそういない。いるのは、大口をたたいて印象を残そうとするビッグマウス系就活生だ。

僕らはトレーディング部門の採用活動をしていたため、統計の問題を"自信"で乗り越えようとする彼を面接で通すことはなかった。

もっとも大切なのは「仲間を作る」力

しかし、翌年の4月、その彼が会社にやってきた。すぐ隣の営業部で採用されたのだ。アメフト部出身で、マッチョな体格に全身こんがり焼けた肌、にこやかな顔立ちだが鋭い目つきが印象的だった。

彼の仕事は、お客さんである銀行にさまざまな金融商品を売ることだった。金融商品を組成したり値付けしたりするのが僕らトレーダーの仕事だったため、彼と関わることが多かった。

営業マンは商品に詳しくなければいけないが、彼は飲み込みが遅かった。特に僕が扱うデリバティブ商品は複雑で、なかなか理解してもらえなかった。「100%の確率で6を出せます」という自信は、やはり口先だけのものだったのか。

そんなある日、彼のお客さんであるメガバンクと大きな取引をすることになった。しかし、彼は泣きそうな声で「自信ないっす」と言う。

さて、困った。

ミスがあれば、お客さんが怒るかもしれないし、取引で大損するかもしれない。心配になった僕は、彼とお客さんの通話に乗って、そのやりとりを聞くことにした。

そこで、ようやく理解したのだ。彼が「必ず6を出せる」と言っていた本当の意味が。

電話の向こうのお客さんも彼とのやり取りに不安を感じていた。そして、こんな提案をしてきた。

「〇〇君、取引内容わかる? 難しそうなら僕がトレーダーと話そうか?」

驚いた。通常あり得ない会話だ。

相手はメガバンクの担当者。半沢直樹のような厳しい世界だ。ところが、そのお客さんは直接トレーダーと話そうと気遣ってくれている。それだけ彼が愛されていたのだ。よく考えてみると僕も同じだった。僕も彼を気遣って電話に出ていた。

いつもの僕なら、物分かりの悪い人には厳しい。彼の上司に文句を言って、担当を変えさせたかもしれない。

だけどそうはならなかったのは、彼を応援したかったからだ。彼は、仕事熱心で、誠実で、魅力的な人間だった。僕やお客さんがサポートしたように、これまでも彼は周りを巻き込んで成功してきた。その意味で、彼のサイコロは全面6だった。

次ページお金とは「協力者を増やすための道具」だ
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