だから日本の会社では「妊娠できない」! 「転職直後の妊娠」に踏み切った私の経緯

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もちろん、長く休むことが一概に悪いこととは言えないし、そもそも現在の都心の保育園事情では復帰したい時期に復帰できるわけでもないという状況があります。育休以外では有給消化もままならないから、ここぞとばかりに休もうと思う人たちが多いのには、育休以外の日常が多忙すぎるという現状にも問題があります。周囲も「今しかないんだから、ゆっくりしたら」と声をかけてくれてしまうので、早く預けることに罪悪感を抱いてしまうという環境や背景もあると思います。

女性たちの間で「いかに早く育休から復帰するか」競争が起こることはよいこととは思いません。でも、もう少し、「できるだけ長く完全に休む」という方向以外の道が採りやすくなり、多様な働き方により多様な貢献の仕方ができる、という形をいろいろな人が実現できるようになれば、ライフイベントを経ながらもキャリアを積める女性は増えるのではないでしょうか。

何度も職場を離れて迷惑はかけられないと、2人目、3人目を躊躇する人がもっと産みやすくなる可能性もあります。また、完全に長期の育休に入るより残された職場の人へのしわ寄せも小さくなり、同僚たちも幾分か気持ちよく「おめでとう」と言えるようになるのではないでしょうか。

第3回記事で仕事の評価と報酬の関係について書きましたが、100%復帰せずに50%の復帰だったら、給料だって50%でいいのです。人事管理上は複雑になりますが、日本のカイシャでは育休に入った人の分、補充がされずに周囲の負担が増える職場が多いのが実態です。であれば、50%でも貢献してもらって、理想的には残りの50%は周囲の報酬が上がる形にできたらいいと思います。

マミートラックを脱するための「プロジェクト型復帰」

育休復帰後の働き方についても、「マミートラックか毎日残業までOKか」のいずれかになってしまっている職場をよく見聞きします。時短を解除したとたん、定時どころか残業までフルで求められるから時短のやめ時が分からず、マミートラックを脱せられないママも多いのではないでしょうか。

上司も、どこまで任せていいかわからないから遠慮してしまう。本人も、子供との時間を削る覚悟がつかない。子供は成長していくにしたがって手がかからなくなるというわけでもありません。子供が喋れるようになればそのぶん自己主張をすることも増えますし、小1の壁やら何やら、先々も課題は多そうに見える。2人目も妊娠するかもしれない――。

そのような状態で「来期からフル残業で働けます」と宣言するのは非常にハードルが高いわけです。それでいつまでも手を挙げられない状況に私自身もはまっていた話は、第1回記事でも書きました。

最近、私が企業内の育休明け女性向けのセミナーなどでよくお話しているのは、「プロジェクト型のフル復帰」「上司とトライアルをしながら、お互いの成功体験を積む」ということです。ある期間、1つのプロジェクトだけフルでやってみる、週1回の残業からはじめてみる。もう少しできそうだと思えば継続すればいいし、また元に戻してもいい。それを少しずつ上司と試行錯誤できたら、組織に貢献できる度合いも増えて、お互いにプラスではないでしょうか。

0か100かではなく、もう少し、復帰の仕方や働き方に多様な選択肢があったら、女性自身のライフイベントを設計する意識も、女性の妊娠を歓迎できない職場の風土も変わっていくのではないかなと感じます。次回は、2つ目の要因、まだまだ女性に育児負担が偏っていること、夫婦の分担問題について書いていきたいと思います。

 

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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