なぜ大人は若者に「合わせる」ようになったのか 成熟という価値観を喪ったデオドラント化社会

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舟津:そうですね。ゆとり世代は「ディス」に用いられることが多いのに対し、Z世代はキラキラしたイメージで語られることも多く、ビジネスの商材になっている部分があります。たとえばTikTokは若者の支持を得ていると同時に、TikTokのレポートを見るとZ世代の支持を最大限活用しようとしていることがわかります。虚実ないまぜの、虚寄りの若者像が作られていくわけです。そしてそれが広告塔になる。

與那覇 潤(よなは じゅん)/評論家。1979年、神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。学者時代の専門は日本近現代史。著書に『中国化する日本』『日本人はなぜ存在するか』『歴史なき時代に』『平成史』ほか多数。2020年、『心を病んだらいけないの?』(斎藤環氏との共著)で第19回小林秀雄賞受賞。

與那覇:「Z世代はメディアが煽るほど、本当にエシカル(倫理的)なのか?」を検証する本書の筆致には共感しました。どんな世代にも「自分は周りと違って、意識が高い」と自認するタイプは一定数います。そうした人の関心が、2000~2010年代ならITで起業するなどビジネスに向かったのに対し、2020年代にはむしろ政治を意識しだしたという面はありますよね。「気候変動に興味があります」とか、「ガザ問題をなんとかしたい」とか。

そうした「一部の人たちの関心の対象」が変化しただけなのに、Z世代が丸ごと「倫理感が強く、よりよい社会を求めている」かのように持ち上げる論調は、明らかにやりすぎ。逆に言うと、これからどう成長するかがわからない世代に賭けることしかできないくらい、現実の政治の中で追い詰められている年長者が多いのでしょう。

「若手のために」という無責任な言葉

舟津:今の話を聞いて思い出した例が2つあります。1つは、企業の話です。最近いくつかの企業が、若者を重役に起用することで話題を集めています。たとえば、女子高生をChief Future Officer(CFO)に任命するとか、20歳ちょっとの女性を社長に抜擢するとか。普通に考えると経営のセオリーから外れた人事であって、Z世代のキラキラしたイメージを売りにする狙いもあるのだろうなと。

與那覇:CEOをもじってCFOだと。確かにキラキラしていますが、なにをする役職かよくわからない(苦笑)。

舟津:もう1つの例は、研究者の界隈で、よく「若手若手」と聞くようになりました。

與那覇:大会で「若手シンポジウム」を開くとか、「若手の就職問題対策委員会」を作るといった学会が増えているみたいですね。

舟津:そうなんですよ。学会における若手はZ世代よりもうちょっと上ですし、私自身はぼちぼち若手扱いされなくなっていますが……。もちろん相対的に「持たざる者」である若手を支援するのはよいことですし、必要です。ただ率直に思ったのは、若手より上の年になったら、どうしていけばいいのかなと。中堅とかシニアの方がいろんなことをパワフルに頑張ってくれるのも若手はうれしいと思うんですけども、みんな「若手のサポートをします」と言う。全員が、若手のため「だけ」に生きているような。

その正体は與那覇先生がおっしゃったようなある種の行き詰まりがあって、無責任にキラキラした未来を信じたい願望の表れが「若手のために」という言葉なんだと思います。

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