JR西の新型やくも、旧型「暗くて狭い」をどう克服? 目指したのは「我が家のようにくつろげる車内」

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40年間活躍してきた381系に代わる車両をどのような姿にすべきか。その答をJR西日本、近畿車輌とともに探っていったのは、建築デザイナー川西康之氏((株)イチバンセン代表)である。氏とは米子駅で面会した。

振り返るに、「やくも」はある意味、微妙な存在だったと思える。新幹線接続の山陰方面特急として主役たる立ち位置だが、JR西日本の中で北陸特急のような圧倒的存在ではない。そのため381系は、何度もリニューアルが手掛けられているが、根本的な新車への投資は見送られていた。同じ381系使用路線だった紀勢線はより厳しい線形なので速達効果が薄く、結果、振子をあきらめて新車を導入したが、伯備線はそうはいかない。

また、非電化区間に跨るローカル特急は地元の危機感も高かったため、2000年に前後して島根、鳥取両県が補助を行い線路改良と高速車両の導入を実現したが、「やくも」はある程度需要が高いので補助の話はない。その目で見ると伯備線は主要路線であるのに一線スルーなど近年の高速化メニューも未実施で、列車は駅の分岐器を通過するたびに速度を時速50km程度に落とす。

「やくも」の欠点と伸び代を組織横断で洗い出し

今昔の所要時間を見てみたい。「やくも」は山陽新幹線岡山開業とともに誕生した。まだ非電化路線の気動車特急だった1980年頃、強力型で名を馳せた181系をもってしても岡山―出雲市間の所要時間は3時間50分台であった。それが381系への置き換えで3時間前後となった。さすがに電車化、そして振子化の効果は大きい。だが、現在もその所要時間はほとんど変わりないのだ。高速化改良を行った山陰本線内でも時間差はない。つまりは意外と言えば意外なほど、昔の状態が隠れている。

それでいよいよ既存車両の経年が40年に達し、やっと投資の順番が回ってきた。だが、1982年に伯備線の大躍進とともに投入された381系は9両編成9本の81両だったが、今回の273系導入計画は4両編成11本44両で、ほぼ半減である。検索サイトで関西―山陰間を調べると高速バスが筆頭に出てくることも珍しくない。そうした現状で「やくも」をどうすれば維持、そして伸ばしてゆけるか。何が課題で何が取柄なのかを探る。スタートはそこだった。

「まずは本社・支社、運輸・車両に駅・営業から後藤総合車両所のメンテナンス部門の社員も集めて、横断的に議論する場を設けました」

実際の「やくも」の乗客から聞き取り調査を考えたが、コロナ禍の最中で接触は憚られたため、JR社員の家族や周辺から意見、評価を集めることになった。その結果はしかし散々なものだった。所要時間や金額のほか、新幹線から乗り継いだ際の暗さと狭さ、なんとも言えない匂いなど。その一方の伸び代としては、シートベルトをつけずに“ゆとり”を享受できること――つまりはそこに帰結する。

雲の形の折り畳みテーブルは駅弁などを広げて今は忘れかけた列車の旅ができる。テーブルランプの頭頂部にもじつは雲形があしらわれている(写真:山下大祐)
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