JR西の新型やくも、旧型「暗くて狭い」をどう克服? 目指したのは「我が家のようにくつろげる車内」
そこで生まれたのが、客室に入った途端の明るい爽やかな空間である。山陰地方の居住環境は北陸と並んで高水準(1人あたりの床面積が広い)であることに鑑み、外観における「沿線の風景に響き自然に映える車体」に対し、インテリアは「山陰の我が家のようにくつろげる温もりある車内」をコンセプトに据えた。新幹線の座席間隔は1050mm(普通車。以下同)なので、同等の1040mmとした。サンダーバード等JR西日本標準の970mmよりも広げた。クッションの厚みや感触も再考した。座席のチルト機構はJR西日本では初採用だ。座席間隔に合わせて窓も大きい。381系は国鉄標準910mmの座席間隔を1994〜98年のリニューアルの際に1000mmに拡げたが、そのために窓割と合わなくなっていた不都合も新車で解消される。空気清浄器などは最近の車両として標準装備している。
「ニーズを汲み上げる」ことを強く意識し、半室グリーン車のクモロハ272形(1号車および5号車)では、残る半室の普通車部分を対面ボックス式で間にテーブルを挟むセミコンパートメントとした。そのターゲットは第一にファミリーを挙げる。若者の移動手段は高速バスかLCCで、過ごし方としてスマホしかない現状を見ると、鉄道は幼い子ども連れに楽しく乗ってもらわないことには将来がない。ところが381系は一般座席が並ぶだけの客室。幼な子がグズッてもデッキは冷房がなく(客室からダクトだけ回す改造はされているが)逃げ場がなかった。
売りづらいグループ席もネット時代なら
これまで個室的座席は、「売りづらい席」との窓口側の消極姿勢もあって軒並み失敗しているが、反面、もはや新車というだけでは増客効果が現れない時代と言う。そこで、「きっぷはネットで……」を強力に推進している現下、そうしたWeb上の露出を増やす方向で、一般とは違う座席にもあらためて取り組むことになった。
また、新型やくもが入ったことで山陰の鉄道が変わったと感じてもらわねばならない。そのアピールのため主要停車駅の駅名標は雲形とし、ベンチも地元木材による新品を誂えた。今のところ米子と出雲市の2駅だけだが、待合室も刷新して「やくもラウンジ」と名付けた。木の香漂う洒落た空間である。所在なく列車の時間を待つだけでなく、列車通学の学生・生徒が放課後に勉強するにも、それを見守る人々にも心地よい空間としたい……との想いだ。
山陰は空港が充実しており、兵庫のコウノトリ但馬空港から山口の萩・石見空港まで3県に5カ所もある。それらは快適に過ごせる施設のモデルである。一方、鉄道は顧みられず、まずはキヨスクが消えてコンビニも入らない。駅前商店街は衰退している。それで駅に人が集まるはずもない。そうした状況が広まる中、それでは地元全体が廃れると地元も協力し、まずは「やくも」停車駅から様子を変化させて、点から線へ、線から面へと活性化の波を拡げてゆこうとの取り組みであると聞く。
極論すれば、現下の山陰地方の鉄道においては「やくも」が最後の砦である。これで人が呼べなかったら後はない、という状況の中で取り組みが始まったところである。
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