石田衣良は、なぜ出版業界に絶望したのか 「小説家と過ごす日曜日」に込めた思い
僕はそういう取材は本当に得意で、5分あれば全部聞き出せちゃいます。トランプの7並べみたいなものなんですよ。負けまいとすると、普通は弱いカードから出して行くじゃないですか。でも実は逆で、早く上がったほうが勝ちのゲームなので、自分の持っているいちばんいいカードを出す。
話を引き出すときも同じように、思い切って自分からカードを切るんです。そうしたら「えーっ、私もこんなことがありました」って言って、戻してくれる。最初に面白いネタを話すということが大事なんですね。これは男性の皆さん、街コンとかお見合いパーティの席でぜひ使ってください(笑)。
――そこまで自分を見せる勇気は、なかなか出ません。
自分を見せてしまって、「この人はダメだ」とそっぽを向かれたらあきらめて次に行くという繰り返しでいいんじゃないですか。だいたい、みんな目の前にいる人に気に入られたいと思い過ぎ。今だったら年に100万人が生まれていて、そのうち50万人は女性ですよ。50万人いれば目の前のひとりぐらいは空振りしても大丈夫だと思います。
男の人も女の人も、外見がああだこうだとか言いますけど、実は、話して面白い人、会話のテンポが自分と合う人というのが好みの半分以上を占めているんですよ。そこをもっと考えればいいんじゃないかな。とくに男の子なんかですごく格好をつけていて、ブランドでバッチリ決めているんだけど、口を開くとこいつはバカだなという子は、まったくモテない。そこをもうちょっと頑張ってほしいんですけどね。
――婚活をテーマにした小説も書いています。これは今の社会問題のひとつです。
絶対に自分を変えたくないし、自分を守りたいと考えているんですね。でも誰かと一緒にいるって、その人によって自分が変えられてしまうということ。「ちょっとぐらい変わってもいいか」ぐらいのゆとりがないと、結婚って難しいのかもしれませんね。自分が好きでもいいんだけど、ほかの人を入れる隙間をほんのちょっと作ってあげれば、結婚はそんなに難しくない。
極端な例ですが、大けがをして右手が使いにくくなっても、使いにくいまま生きて行けるじゃないですか。結婚も同じで、松葉杖で生きて行くようなものなんです。こんなことを言うと、炎上しちゃうかな(笑)。でも、安定と引き換えに、ある種の不自由だったり、荷物を背負うということです。「今より不自由になるかもしれないけど、それもまたいいんだよ」ぐらいの大らかな気持ちで向かえばいいんじゃないかと思いますけどね。
情報は人が介すると変わるもの
――今は誰でも簡単にインターネットで情報を得たり、発信することができます。気をつけることはありますか。
僕自身は、自分なりのセンスが大事だと考えています。情報というのは、人が介すると変わるんですね。人はプリズムみたいなもので、透明に見えるけど、そこを通ると角度が変わって、光がバラバラに散らばったりします。その人の色の付け方やセンスが必ずどこかにある。それを考えたうえで情報を選んだり、考えたりするということが大事です。
特に今回のウェブメディアは有料ですし、僕たちのセンスで、今の時代にこれが面白いということを、ちゃんとセレクトしていきたいと思っています。
――今、石田さんが面白いと感じていることは?
ギリシャの問題は面白いですね。なんて言うか、ギリシャ人のプライドの高さがすごいなと思います。たとえば前回やった国民投票。これが日本人だったらどんなに苦しくても、緊縮策を受け入れてユーロと一緒に生きようという考えになりますよね。ところがギリシャは、EUからの申し出を蹴飛ばしてしまった。
ギリシャって人口が1000万人ちょっとなんですよ。そこにトロイカ、つまりEU、ECB、IMFが貸しているおカネが約40兆円あるんです。日本の人口はギリシャの11倍なので、日本のレベルで言えば450兆円借金があることになるんです。とても返せる額じゃないですよ。それだけの額を借りてしまったうえで、「ちゃぶ台返し」をするって、どういう精神構造なのかと思うでしょう。
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