大手のオンラインのレコード・ストアに電話しても、答えはどこも同じ。
「オンライン・ストアでCDを売りたいのなら、大手の流通業者(ディストリビューター)を通すこと」
自分のCDを売りたかっただけ
音楽の流通ビジネスはとにかく厄介な世界だ。流通の契約を結ぶのは、レコード制作の契約を結ぶのと同じくらい難しい。
流通業者は、販売用に何千枚ものCDを受け取るが、その対価の支払いは、ようやく1年後になってから。
潤沢な資金のある大手のレコード会社は、プロモーション用の高額な広告枠を買える。でもそうでない弱小会社は、ひどい扱いを受ける。最初の数カ月の売れ行きが悪ければ、システムから叩き出されてしまう。
流通業者が極悪非道なことをしていたというわけではない。ただ、とにかく業界全体の仕組みがひどかったのだ。
僕は、そんな業界のシステムに関わりたくなかった。だから、大手のオンライン・レコード・ストアから門前払いを食らったとき、とっさにこう考えた。
「上等じゃないか。自分のオンライン・ストアを立ち上げてやる。大したことはないはずだ」
だがそれは、実際にはとてつもなく大変だった。
1997年当時、オンラインの決済サービスを提供するペイパルはまだ存在していなかった。
だから、まずはカード決済を可能にするために、クレジットカードのマーチャント・アカウントを取得しなければならなかった。
それには設定料として1000ドルが必要で、事務手続きに3カ月もかかった。
僕がまともなビジネスをしているかどうかを確認するために、銀行から担当者がわざわざやって来たくらいだ。
それから、ウェブサイト上に表示されるショッピングカートのつくり方も学ばなければならなかった。
プログラミングについてはずぶの素人だったので、本を見て、そこに書いてあるコードをコピーしながら、見よう見まねで試行錯誤を重ねていった。
そして、ついにウェブサイトに「Buy Now(今すぐ購入)」ボタンが表示された!
1997年当時、それは大きな出来事だった。
ミュージシャン仲間に「Buy Now」ボタンのことを話すと、ある友人から、「俺のCDも売ってくれないか?」と頼まれた。
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