さて、告げられた検査結果は、幸いにも、急性腎炎のほうだった。薬なども必要なく、数日で自然に治ると伝えられた。
「医師からも『よかったですね』と言われました。その瞬間、心から安堵したのを覚えています」(由美さん)
実際、むくみは数日でよくなり、足は元通りに。1週間ほどで腎臓の数値も正常になった。
由美さんによれば、溶連菌感染症になったときは、仕事の忙しさがピークだった。「そのため、熱が下がると、すぐに仕事を始めてしまいました。忙しさで体力が落ちていたのも腎炎の引き金になったのではないかと、反省しましたね」。
以来、風邪をひいたときや、体調が悪いときにはしっかり休養することを心がけるとともに、友人にも自分の経験を伝えているという。
総合診療かかりつけ医・菊池医師の見解
総合診療かかりつけ医で、きくち総合診療クリニック院長の菊池大和医師によれば、頻度ははっきりしないものの、溶連菌感染症を発症したあとに、「腎炎」(糸球体腎炎)が起こるケースは、ときどきあるそうだ。
なぜ、溶連菌感染症から腎炎が起こるのか。それはこんな仕組みだ。
体に細菌などの病原体が侵入すると、免疫細胞は抗体を作り、異物(抗原)に結合することで、細菌の毒性を弱めようとする。抗体に異物がくっついたものを「免疫複合体」と呼ぶ。
抗体が異物と結合すること自体は、異物から体を守る防御反応であり、大切なのだが、この免疫複合体が体内で大量に作られすぎると、体の臓器に悪さをする場合があるという。
「溶連菌感染症の合併症である腎炎は、免疫複合体が腎臓の糸球体という毛細血管に沈着することで発症すると考えられています」(菊池医師)
由美さんが「しっかり抗菌薬を飲まなければならない」と、症状がなくなってからも抗菌薬を飲み続けたのは正しく、抗菌薬を服用する一番の目的も、この糸球体腎炎を防ぐためだという。
「抗菌薬は、約10日間と長めに処方をするのが特徴。決められた期間や量を服用することで、腎炎を予防する効果が得られるというエビデンス(科学的根拠)に基づいています」(菊池医師)