心臓外科医が説く「手術に向き合う」心の整え方 「ゾーンに入る」ことを期待してはいけない

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それは、漫画『ブラック・ジャック』との出会いです。それまで私は、将来のことを深く考えることなく日々を過ごしていましたが、『ブラック・ジャック』を読み、大きな衝撃が走りました。

みなさんご存じのとおり、この漫画の主人公ブラック・ジャックは、組織に属さない孤高の天才外科医。高い医療技術を持つ彼が、さまざまな人の命を救っていく物語です。1970年代に『週刊少年チャンピオン』で連載されていました。

ブラック・ジャックは高額な手術費を要求するのですが、それには理由が隠されています。心の底に、熱いヒューマニズムを秘めている。

周囲の雰囲気に流されることなく、自らの腕ひとつで世界を舞台に人間の生命と向き合うブラック・ジャックに私は憧れました。そして、麻布高校に進む前に決意したのです。

「ブラック・ジャックのような外科医になりたい」と。

私は手先が器用だと感じていましたから、心臓外科医を目指そうとも思いました。

中学生のころ、私はそれほど漫画が好きだったわけではありませんでした。そんな私が偶然にも『ブラック・ジャック』に出会えたことには、運命的なものを感じます。

手塚先生が描くブラック・ジャックは、単に技術に優れた天才医師にとどまりません。人間の生死に真摯に向き合い、「生きるとは何か」ということに思慮深く迫っていました。そのことが、中学生の私の心を強く揺さぶったのだと思います。

私にとっての「戻るべき場所」、それは『ブラック・ジャック』に出会った少年時の心のときめきです。もし日々に追われて自分を見失いそうになったら、「戻るべき場所」を意識してください。それが心を取り戻すきっかけになるはずです。

白衣を着たらやることはひとつだけ

「懈慢界(けまんかい)」という仏教用語があります。無数の快楽によって、極楽浄土に生まれようとする本来の目的を見失わせる世界のことを言うそうですが、まさにこの世の中はその世界に近づいてきているような気がします。

私が初めて「オフポンプ手術」を成功させたころの医学界の反応は、決して好意的ではなく、それどころか、激しい批判を浴びました。

1994年の日本外科学会で、私は手術の成果を発表しました。より安全な手術を多くの医師に行ってもらい、患者さんのリスクをできる限り取り除きたいと思ったからです。

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