心臓外科医が説く「手術に向き合う」心の整え方 「ゾーンに入る」ことを期待してはいけない
心臓外科医である私にも、「手術をしているときの感覚も同じですか」と、取材をしてくださる記者の方から聞かれることがよくあります。
そんなわけがありません。
もし、あなたが患者として、私に心臓手術の執刀を託してくださったとしましょう。日によって驚くほどの実力を発揮することもあれば、そうでもない手術をすることもある心臓外科医。こんなパフォーマンスに波のある外科医に、自分の命運を賭けたいと思いますか?
少なくとも、私が患者なら嫌です。
心臓外科医にとって、何よりも大切なのは「メンタルフラット」であること。緊張しすぎず、いつもどおり、練習でやってきたことを本番でも再現することに意識を向けます。そして、もし何か最初の想定とは違うことが起きたとしても対応できるように、スタッフからの声が聞こえるくらいの深さの集中をもって、患者さんと向き合います。
毎回ゾーンに入れるのであればいざ知らず、為末さんでさえ、生涯において経験されたのはわずか3回だけです。そんな奇跡のような状態を引き出そうとするよりも、実力をしっかり発揮できる力を身につけるほうが、価値があると思います。
では、仕事においてパフォーマンスにムラがある人と、パフォーマンスの波が少ない人で比べた場合、どちらに仕事を任せたいと思うでしょうか。
多くの方が、後者に仕事を任せると思います。なぜなら、仕事を任せるときは「期待どおりの働き」を相手に求めているからです。はじめから「期待以上の働き」を求めている人はいないでしょう。
大事なのは「いつもと違う力を発揮する」ことよりも、「いつもと同じ力をどんなときでも発揮できるようになる」ことです。「メンタルフラット」を強く意識してください。
見失った自分を取り戻す「戻るべき場所」
生きていればさまざまな影響を受けて、自分は何をしたかったのか、見失いそうになるときがあります。私も、何度も何度も経験してきました。
1958年10月10日に東京で生まれた私は、少々腕白ながら平凡な少年でした。ただ、工作や細かな作業が得意で、手先は器用でした。これは父親から受け継いだものだったと思っています。
麻布中学校に進学。その中学3年生時に、運命的出会いがありました。
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