こうした中で注目したいのは、インフレ動向である。消費者物価上昇率は2022年に11.9%を記録した後、2023年には7.4%に低下し、ロシアにとっての「普通のインフレ」水準に落ち着いている。
しかしながら、ロシア国民には根強い「インフレ懸念(インフレ期待)」がある。経験則として、ルーブル安がインフレに直結するという記憶が染みついているため、少しでもその気配があると国民が自衛策に走り、インフレが自己実現する素地がある。
2022年春の、外貨収入の強制両替などの奇策を用いた通貨安定策は、政権側のインフレ阻止の強い意志の表れでもあった。古今東西、ハイパーインフレは政権を脅かす最大の要因の1つである。果たしてロシア当局はインフレをコントロールできるだろうか。
戦時経済という言葉から、「欲しがりません、勝つまでは」という標語を唱えて窮乏生活に耐える国民を思い浮かべるのは、筆者だけではないだろう。しかしながら、ロシアの現実はそれとはまったく異なる。
ロシアを追い詰める制裁はあるのか
スーパーのワイン売り場には、ボルドー産やカリフォルニア産のワインが隙間なく並んでいる。対ロシア制裁はあまり効果がなさそうだ。
少し視野を広げてみれば、より長期間より厳しい制裁下にある北朝鮮経済が崩壊には至っていないという現実がある。はるかに大きな経済力を持つロシアを追い詰めるような経済制裁はそもそも不可能だと考えるのが妥当ではないか。
他方で、経済制裁や戦争の継続自体がロシア経済に負の影響を与え続けることも確かである。ロシア経済の近代化には西側先進国の技術や資金が不可欠だった。中国やグローバルサウスとの関係強化は、それらの一部を代替するかもしれないが、西側諸国と良好な関係を続けていれば得られたであろう果実よりは小さい。
戦闘で消耗するためだけの軍需品の生産を増やすことは、資源(天然資源、人的資源など)の浪費以外の何物でもない。戦場で命を落とす兵士に至っては言わずもがなである。
現在、ロシア経済の懐の深さのおかげで、ロシア国民は普通の生活を送ることができているのだが、そのことは果たして幸せなことなのか。悩ましい問題である。
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