中東諸国がイスラム国に勝てない本当の理由 問題は米国の手腕や姿勢にあるのではない

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サウジアラビアではシーア派が成長しているように見え、同国の多くの人が自国の存亡にかかわる脅威ととらえている。だがシーア派よりISのほうが脅威であり、ISに打ち勝つためにはサウジアラビアの支持が欠かせない。

米国の政策は、成功に必要な多くの要素を含んでいる。核協議を補完するイランとの地域対話。ISと戦うための、サウジアラビアを含めた地域同盟の促進。そして、イラクにおける和解の前進、軍隊への支援、国への忠誠心を条件とするスンニ派部族への援助などだ。

双方の歩み寄りがないのはなぜなのか

問題の中心は米国の手腕や姿勢ではない。この地域におけるリーダーシップや先見性の不足を米国の政策で補うことは決してできないのだ。

イラクのシーア派のリーダーシップに対する批判は結構だが、この地域の各国スンニ派政府からシーア派への歩み寄りがいっさいないのはどういうことなのか。

イラクにおけるシーア派支配の現実をサウジアラビアが受け入れているなどと、いったい誰が信じるだろうか。あるいは、犯罪がはびこる地域において隣り合う2カ国が形成すべきネットワークを構築する準備が、サウジアラビアにできているなどと信じている人間が、本当にいるのだろうか。

宗派的なイデオロギーの訴求力を封じ込めるための、地域的な宗教対話がなぜ始められていないのだろうか。シーア派を背教者として非難し、彼らの聖地を狙った度重なる攻撃に対して沈黙を貫いたことで、溝は深まってしまった。

中東では、敵の敵はやはり敵なのかもしれない。だが、ISに立ち向かう中で、中東の各派閥には現状を変える千載一遇の機会が到来している。共通の敵はすなわち共通の利害であり、共に築き上げる未来の礎となる可能性がある。だからこそ、この地域は今回の危機を決して無駄にしてはいけないのだ。

週刊東洋経済2015年7月11日号

クリストファー・ヒル 米デンバー大学コーベル国際大学院長

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Christopher R. Hill

米国の元東アジア担当国務次官補。近著に『Outpost』。

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