オバマ米大統領によるイラクへの米兵増派、および、スンニ派が支配するアンバル州をその派遣先とする決断が物議を醸している。米国では、段階的な増員が泥沼化を招いたベトナム戦争の教訓に目が向けられている。
一方アラブでは、この決断の政治的影響が議論の的だ。論点は、スンニ派民兵組織を武装させた米国は、統一されたイラクという目標を放棄してしまったのか、だ。
フセイン政権崩壊後に構造が変わった
マリキ前首相やその後任のアバディ首相を含むイラクのシーア派指導者らが、国内少数派のスンニ派に十分に手を差し伸べてきたかについてはさまざまな見方がある。スンニ派はイラクの人口の約20%にすぎないが、同国の命運に対しては大きな影響力を持つ。
彼らは数世紀にわたってメソポタミアの支配階級の一部であったし、その権利意識は明白だ。さらに言えば、スンニ派はシリアを除くすべてのアラブ諸国を支配している。バーレーンなどスンニ派が少数派の国でさえそうだ。シーア派が主導権を握るイラクには、中東アラブ圏において中立の同盟国はない。
2003年のフセイン政権の崩壊までは、イラクは非宗教寄りで民主化の土壌ができている、と多くの人が考えていた。だが、フセイン以降のイラクは宗派政治の活発な国となった。スンニ派の権力構造を破壊したことが、そのプロセスを加速したのだ。
シーア派がイラクへと戻るにつれ、スンニ派は国を出ていくようになった。今もなお選挙では、スンニ派はスンニ派に、シーア派はシーア派に投票する状況が続いている。
シーア派によるスンニ派への歩み寄りは重要だが、イラクや中東の多くの地域における真の問題は、スンニ派が「イスラム国(IS)」など、スンニ派内部の過激派にきちんと対応できるのか、あるいはどのように対応するのかだ。
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