原動力は「選手強化」大規模アイスショーの舞台裏 フィギュアブームが追い風、「羽生結弦」の存在感

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羽生さんは、「アイスショーではジャンプを含め演技の各要素を失敗しにくい難易度に抑える」という従来のあり方を率先して変え、プロ転向後もオープニングから4回転ジャンプを跳んでいる。すべての演目が終了した後に行われる「ジャンプ大会」でも高難度ジャンプに挑む。そうした積極的な姿勢はほかの出演者にも伝播し、とくに若い選手にとって刺激になってきただろう。

ショーの大きな売りであるアーティストとのコラボ演目でも、羽生さんは曲を深く研究し、皆を驚かせるような演技を用意してくるという。

「彼と同じ時代にフィギュアスケートの世界に身を置き、その進化を間近に見られたのは本当に幸運なことでした。ショーでも全力を尽くしてくれるから、私たちも演技を見るのが毎年楽しみです。“羽生結弦出演ショー”だからチケットを買う、というお客さんが多いのもわかっています。でも、1つ肝に銘じているのは、彼の人気にただ乗っかろうとするのは違う、ということです。私たちは私たちで、より良いショーをつくるために努力をする。そうしていかなければ、未来はないんです」(真壁社長)

「羽生結弦単独ショー」という“競合”

フィギュアスケートの世界はこの数年で大きく変化し、集客に苦戦するショーは少なくない。「ファンタジー・オン・アイス」も、例えば2023年の宮城公演では、とくに初日である金曜日の公演で、会場後方に多くの空席が出た。コロナ禍以降、平日夜のイベントの集客が難しくなってきているとはいうが、理由はそれだけではないだろう。

会場の立地やアクセス面は要因として大きいが、もう1つ考えられるのが、羽生結弦さんの単独ショーや座長公演と観客が重複することに伴う集客不調だ。2022年のプロ転向以降、羽生さんの単独公演や座長公演が盛んに行われている。

もっぱら羽生さんを応援するファンであれば、より多く羽生さんの演技を見られる単独ショーや座長ショーの優先度が高くなるのは想像にかたくない。羽生さんがほぼ確実に出演することがほかのショーとの差別化要因の1つになっていた「ファンタジー・オン・アイス」に、「羽生結弦単独ショー・座長ショー」という“競合”が現れたのだ。

「彼の単独ショーや座長ショーの影響は、やはりあると思います。当社もその運営に関わっているのでわかっているし、現状を楽観視してもいない。ただ、お客さんを奪い合うというよりは、お互いに高め合いたいという気持ちです。『ファンタジー・オン・アイス』は、多くのスケーターやアーティストが一緒につくり上げるエンターテインメント。その魅力をうまく打ち出していきたい」(真壁社長)

チケットの売れ行きが非常に好調だったこの10年、ショーの内容を充実させるための投資には力を入れてきた。2023年に初めて導入したムービングステージ(SNS上ではロボット掃除機になぞらえて「ルンバ」と呼ばれた)もその一環だった。

真壁社長は、「この10年が特別で、それが元に戻るということなのかもしれない」とも吐露する。

10年の間、自身もスターの演技に魅了されつつ、しかし経営者としては「スター依存」への危機感を持ち続けた。だからこそ、「“フィギュアスケートファン”、“ファンタジー・オン・アイスファン”を増やしたい」という変わらぬ思いを強調してきた。

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