原動力は「選手強化」大規模アイスショーの舞台裏 フィギュアブームが追い風、「羽生結弦」の存在感
しかし、アイスショーを事業として続けるためには黒字化しなければならない。選手に強化の場を提供するためには、安定した利益を出せる仕組みが必要だ。
CICは2000年代初頭の主催経験の中で、世界各国のスケーター、スケート関係者とのネットワークを構築し、企画から集客までのノウハウを蓄積できた。併せて、2006年トリノ五輪以降のフィギュアスケートブームが追い風になる。
女子では荒川静香さんのトリノ五輪金メダル獲得や、浅田真央さんのトリプルアクセルに注目が集まり、男子も高橋大輔さんがアジア人として初めて2010年のバンクーバー五輪で銅メダル獲得、世界選手権優勝を果たした。次々にスター選手が生まれる中で、「ファンタジー・オン・アイス」にとって、とりわけ大きな存在となったのが羽生結弦さんだ。
2013年に羽生結弦さんを大トリに
フィギュアスケート界と密接に関わってきた真壁社長は、ショーの出演者だけでなく、将来の出演者候補となりうるスケーターを探すことにも努めてきた。シニアに上がる前から注目のスケーターだった羽生さんとも2008年頃から交流があった。新生ファンタジー・オン・アイスには2010年の第1回から出演をオファーし、2013年公演では、ソチ五輪を前に初めて大トリを任せた(以降、2023年公演まで出演時には大トリ)。
2014年に羽生さんがソチ五輪金メダリストになってからは、人気が拡大する一方だった。羽生さんのファンの間には、「ニース落ち」「ソチ落ち」といった用語がある。いつどの演技を見てファンになったかを意味するもので、「ニース落ち」なら2012年世界選手権から、「ソチ落ち」なら2014年五輪からファンになったことを指す。以降も新たな「○○落ち」が次々に生まれた。
そんな羽生さんがほぼ確実に出演するショー(怪我の治療中だった2016年を除く。また、2020、2021年はコロナ禍で開催されず)。しかも、実質座長のような立ち位置である。チケットは入手困難が続いた。
羽生さんは、オープニングなどで中心的な役割を果たし、大トリの演技を終えれば会場は総立ち。さらに、終演後はリンクから退出する出演者を労う側に回る。
出演者の1人というよりは、ショーの成否を自ら担おうとするかに見えるが、「実質座長」はCICからの依頼によるものなのだろうか。尋ねてみると真壁社長は「それは曖昧です」と言う。「座長をお願いします、と話をしているわけではない。ただ、彼はずっと、そういう意識で出演してくれていると思います。私も、彼が先頭に立って、みんなを引っ張っていってくれると期待している。なんといっても五輪2連覇のトップスケーターですから」。
「ファンタジー・オン・アイス」の歴史は、羽生さんと制作側との切磋琢磨の歴史だったともいえる。「彼が出演するショーなのだから、当然、クオリティーの高い、ナンバーワンのショーにしなきゃいけない。私たちも負けられない、と思ってやってきました」。
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