子どもと接する仕事に「性犯罪歴を確認」する是非 小児性愛型の同種再犯率は5年間で5.9%

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犯罪に至ったパーソナリティの問題、逸脱した性的衝動、認知のゆがみ、不適切な行動パターンなど、犯罪に関連する根本的な問題を修正しなければ、再犯のリスクは高いままだ。

現在刑務所などでは、認知行動療法という心理療法が実施されているが、それは再犯率を30ポイント程度下げる効果があることが明らかになっている。しかし、刑務所に入った全員が治療プログラムを受講できるわけではないし、出所すれば治療を受ける機会は閉ざされる。また、執行猶予や罰金で済んだものは、そもそも治療を受ける機会すらない。

治療サービスの拡充が効果的な対策

社会で、このような治療サービスを提供することは、刑務所で提供するよりも効果が大きいことがわかっている。したがって、DBSのような抑止的アプローチと組み合わせて、社会の中でこのような治療サービスを拡充することが、現時点でできる最も効果的な対策だ。

しかし、わが国には、性犯罪者を治療できる施設や専門家が圧倒的に不足している。したがって、DBSの実施に先立って、治療専門家の育成、治療施設の拡充などを進めることが喫緊の課題だ。

被害者の人権を守り、将来の被害を防止するために、将来的に加害の恐れがあるという理由で「かつての加害者」の人権に一部制限をかけることを許容するのが、このDBSという制度だ。

子ども安全を第一に置くことはもちろんだが、性犯罪を憎み恐れるあまり、感情的な大ナタを振りすぎないことも同じように重要だ。その大ナタは、逆に社会を傷つけてしまうかもしれないからだ。さまざまな方面からの慎重な議論を求めたい。

原田 隆之 筑波大学教授

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はらだ たかゆき / Takayuki Harada

1964年生まれ。一橋大学大学院博士後期課程中退、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校大学院修士課程修了。法務省法務専門官、国連Associate Expert等を歴任。筑波大学教授。保健学博士(東京大学)。東京大学大学院医学系研究科客員研究員。主たる研究領域は、犯罪心理学、認知行動療法とエビデンスに基づいた心理臨床である。テーマとしては、犯罪・非行、依存症、性犯罪等に対する実証的研究を行っている

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