子どもと接する仕事に「性犯罪歴を確認」する是非 小児性愛型の同種再犯率は5年間で5.9%

拡大
縮小

しかし、DBSも万全とは言い難い。第1に、すでに多くの人が指摘しているように、DBSを活用する職業の範囲をどこまで広げるかという問題がある。法案で義務化されるのは、学校、保育所、児童養護施設などに限定されている。

その他の学童クラブや学習塾などの民間事業所は、「認定制度」となり、一定の条件をクリアし、認定を受けた事業所のみがDBSによる前科の確認を行うことになる。認定を受けない事業所もあるだろうし、個人事業主として家庭教師やベビーシッターを行う者もいるだろう。

一方、いたずらに業種を拡大しすぎると、憲法で保障された職業選択の自由を脅かすことにつながるし、前歴のある人から就労の機会を奪うことになる。

性犯罪者に限らないが、犯罪者が更生し社会復帰するうえで一番重要なことは、就労であり、それによって社会的な関係を再構築することだ。これが犯罪抑止に及ぼす効果は非常に大きい。

就労によって経済的余裕ができ生活が安定すると、人と人とのつながり、すなわち社会的関係ができる。そして自信や自尊心が育まれ、何かにコミットして忙しい時間ができることなど、そのメリットは大きい。逆にこれらがないと、再犯のリスクが格段に拡大する。

DBSによって犯罪防止のために就業へのハードルを高くしてしまうと、それは逆に再犯リスクを高めてしまうことにつながるのだ。

性犯罪の前歴チェックに課題

第2に、「性犯罪の前歴」をどのように定義するか、そしていつまで前歴をチェックするのかという問題だ。

法案では、拘禁刑のほか、罰金や執行猶予まで含むとされており、不起訴になったケースまでは含まれない。たとえば、被害者との間で示談が成立し、犯罪事実はあったとしてもそれが軽微で、被害者が寛恕の心を示しているのであれば、不起訴となることはめずらしくない。

あるいは、いったん嫌疑がかかったとしても、証拠が不十分であったり、犯罪事実がないことがわかって不起訴となったりするケースもある。この場合、冤罪のケースも含まれるだろうから、不起訴になった場合にまで対象を広げることは不可能だろう。

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【動物研究家】パンク町田に密着し、知られざる一面に迫る
【動物研究家】パンク町田に密着し、知られざる一面に迫る
広告収入減に株主の圧力増大、テレビ局が直面する生存競争
広告収入減に株主の圧力増大、テレビ局が直面する生存競争
現実味が増す「トランプ再選」、政策や外交に起こりうる変化
現実味が増す「トランプ再選」、政策や外交に起こりうる変化
【田内学×白川尚史】借金は悪いもの?金融の本質を突く教育とは
【田内学×白川尚史】借金は悪いもの?金融の本質を突く教育とは
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT