Z世代を不安にさせるビジネスがなぜ流行るのか 不安に動かされる「われわれ」の社会の病理

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ところで、上の不安ビジネスの説明を見たときに、どこかで見たような気がする、という気はしなかっただろうか? 「幸福になれる」「成長できる」「安心できる」……そう、怪しげな新興宗教あたりがお金儲けをするときに使うフレーズである。「先祖が泣いている」「霊がついている」「修行して新しいステージに登れる」などという言葉を使って不安を煽るのが宗教を騙るビジネスの特徴であるが、上のような不安ビジネスはその新しいバージョンと言えるかもしれない。

ただし、古きよき?宗教を騙るビジネスと現代の不安ビジネスには一つ大きな違いがある。かつての怪しげな新興宗教は、「魂の救済」のような形で、一応の正しさというか、ある種の倫理性を主張する。単なる嘘かもしれないが、一応お金を投じることが何らかの意味で善であると主張するわけである。しかし、現代の不安ビジネスはそのような正しさや倫理性を主張するでもなく、ただ根拠のない不安を煽る。言ってしまえば、金儲けがむき出しになったビジネスなのである。

経営者も労働者も不安を抱えている

なぜこのような「不安ビジネス」が存在し、不安に駆られる若者たちをターゲットにしているのだろうか。

この点を舟津さんは明示的に述べてはいないが、この本を読みながら私が考えたのは、企業の経営者や労働者たちもまた不安だから、ということだった。経営者は失敗すれば責められる、あるいはクビになるかもしれない。そうでなくても、株価が上がらなければやはり批判される。労働者も、業績が悪ければ給料が下がるかもしれない、最悪の場合、会社がつぶれて職を失うかもしれない。

そのような不安に駆られる経営者や労働者が、確実に、かつ環境問題だの人権問題だのを気にすることなくお金を儲けようと思えば、この不安ビジネスはなかなか賢い方法である。別に無理やり生産して環境負荷を高めるでもなく、サプライヤーに無理を言って人権問題を引き起こすわけでもなく、ただ不安を煽れば、顧客がみずから(お金のない若者たちさえも!)お金を払ってくれる。

不安を感じる経営者や労働者にとってこれほどよいビジネスモデルが他にあるだろうか。いや、ない。そしてもちろん、経営者や労働者たちも、若者たちと同様に「根拠のない」不安に駆られている可能性がある。

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