安すぎる大学の学費により日本社会が失ったもの 学生の経済的負担が小さいことは利点だが…

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以上をまとめると、日本の大学の安価な学費は、国民の教育水準を上げ、大学が学生を確保するには有効ですが、大学の競争力を高め研究をレベルアップさせるには不適切だということになります。

大学に期待する役割によって学費は違ってくる

では、日本の大学は今後も安価な学費を続けるべきでしょうか、それとも値上げするべきでしょうか。答えは、大学に教育機関の役割を求めるか、研究機関の役割を求めるかによって違ってきます。

大学を希望すれば誰でも学べる「全国民の準義務教育機関」と位置づけるなら、学費は安価なままのほうが良いでしょう。日本の大学進学率は56.6%(文部科学省「令和4年度学校基本調査」)で、アメリカ・中国・韓国など主要国と比べて低水準にとどまっています。進学率を維持・向上させるには、学費の抑制は重要です。

一方、大学を「日本の科学・技術をリードする研究機関」と位置づけるなら、学費を値上げし、その増収分を研究や教員の待遇改善に使って、研究をレベルアップさせるべきでしょう。

個人的には、150万円と言わず300万円くらいまで値上げし、アジア最高額にするべきだと思います。知識社会の現代では、大学の競争力が国家の競争力に直結しており、大学の収入基盤を改革しないと日本全体がジリ貧になってしまうからです。学費だけでなく、低迷する特許収入についても改革を期待します。

もちろん、値上げによって優秀な高校生が経済的な理由で進学を断念することがあってはいけません。値上げと同時に給付型の奨学金を大幅に拡充する必要があります。また、研究機関として価値のない大学を思い切って縮小・廃止するべきでしょう。

ところで今回、少し意外だったのは、伊藤氏の提言に対し一般国民から強い反発があった一方、当の大学関係者からはほとんど意見表明がないことです。

自由な研究ができ、大学も教員も収入が増えるのは大学にとって好都合なはずですが、学生数が減ることを懸念しているのでしょうか。国際的な競争を警戒しているのでしょうか。微妙な問題なので大学から箝口令が敷かれているのでしょうか。ともあれ、議論が盛り上がっていないのは残念なことです。

大学は企業と並ぶ国家の命運を左右する存在。この機会に、国家百年の計として大学と学費のあり方をゼロベースで検討したいものです。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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