最後のトラウトの打席は、永遠に歴史に刻まれる瞬間だと思うけど、メキシコ戦で劣勢に立たされていた時の打席が、僕は印象に残っている。
たぶん6インチくらい外角に外れていたんじゃないか。それをヒットにするんだから。
試合後に確か、「出塁しようと決めていた」って言ったと思うけど、「決めていた」ってねえ。
確かに漫画の世界のことのようだった。彼の内面で起きていたことが、パフォーマンスとなって発揮されたシーンだった。
それが特別なアスリートである証なんだ。プレーを見ているだけで、その人を知っているかのような気分にさせてくれる。あの大会を通して、大谷の競争心の強さを思い知らされた。
もう1つ印象に残っているのが、大谷が決勝戦の前に行ったスピーチ。
彼もメジャーの選手に憧れてアメリカに来ていたから、チームメイトの心理を理解していたんだと思う。そういうことを全て断ち切らせて、みんな「俺の背中に飛び乗れ」みたいな感じだった。
日本で年功序列が大きな意味を持っているのは理解している。だからこそ、あそこで(最年長ではない)大谷が、ああいうスピーチをして序列を打ち破ったことで、日本社会にどんな影響を与えるのか興味がある。
スピーチの仕方も上手で素晴らしかった。優れた選手というだけでなく、優れたリーダーでもあるということが分かった。
必ず「勝ち抜く」という使命
サム・ブラム(以下、サム) WBC期間中は、エンゼルスのスプリングトレーニングを取材していた。
大谷が最後の先発登板をした後に、エンゼルスの監督や選手に、大谷の活躍をどう思ったのか聞いた。もう大会では投げないということだったから。
でも、たしか準決勝で勝った後に、大谷がインタビューで、決勝戦での登板の可能性をほのめかしたんだ。それで球団はちょっと焦った。
「大変だ。シーズンで勝つためには、彼が必要なんだ。今シーズンは彼の健康状態にかかっているのに」って。でも大谷には、このトーナメントを勝ち抜くという使命があった。そして、それを成し遂げた。
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