娘が流すSnow Manに私が「日本の未来」感じた訳 私たちが必要としている「弱者」の再定義とは?

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「国際社会意識調査」を見てみよう。 以下の質問を「政府の責任」と考えない回答者の割合の多さを知ることができる。まるで、私たちは、「弱者」を「既得権者」と認識し始めているようだ。

「病人が病院に行けるようにすること」1位/35カ国
「高齢者の生活を支援すること」1位/35カ国
「失業者の暮らしを維持すること」2位/34カ国
「所得格差を是正すること」6位/35カ国
「貧困世帯の大学生への支援」1位/35カ国
「家を持てない人にそれなりの家を与えること」1位/35カ国

「弱者」の救済は道徳的には正しい。市職員の行為を支持した人たちも、研修医たちも、まちがっている。だが、「弱者へのやさしさ」を当然視するリベラルは、長年、苦戦を強いられてきた。正しさが民意と同じであるとは限らない。

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哲学者ニーチェは、「強者」に対するねたみ、憎悪を「ルサンチマン」と呼んだ。生活苦や仕事のきびしさに耐えている大勢の人たちが、さらなる弱者の既得権を監視し、ねたみ、批判する。まるで「ゆがんだルサンチマン」だ。

「弱者」とは決して弱い人たちではない。やむをえない理由で、弱い立場に置かれた人たちだ。それなのに、弱者が、さらなる弱者を叩く。この様子をTRAIN-TRAINの作詞家である真島昌利さんは、どんな気持ちで見ているのだろう。

悲観する私、肯定的未来を思う娘

「世界価値観調査」によると、「国民みなが安心して暮らせるよう国は責任を持つべき」という質問に8割近い回答者が賛成している。私たちは貧しくなった。「誰か」ではなく「みんな」の不安をなくすための政策、「弱者」の<再定義>がいま必要なのだ。

この歌は悲しい予言の曲なんだよ――そう言って、私は、娘にTRAIN-TRAINを聞かせた。あまり実感がわかない様子だった。だが、聞き終わると、彼女はおもむろにYouTubeをひらき、Snow Manの曲を流し始めた。

心が荒んでしまって
誰も信じられなくなって
強く当たってしまっても
待っててくれたんだ
もしこの先君が
困る時があったら
今度は僕が君のこと
支えてあげるから
出所:「ベストフレンド」(作詞:SHOW)

もしかするとこの歌が日本の未来になるかもしれないね、と娘はつぶやいた。私の頭には、支え合い、頼り合う人びとの姿が浮かんだ。心が温かくなった。

否定的な現状。悲観する私。いまを生き、肯定的未来を思う娘。どちらが正しいのかは誰にもわからない。でも、そんな<やさしい社会>を想像するのも悪くない。今日は、家族と語り合ってみよう。Snow Manを聴きながら。

井手 英策 慶應義塾大学経済学部教授

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いで えいさく / Eisaku Ide

1972年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。日本銀行金融研究所、東北学院大学、横浜国立大学を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。総務省、全国知事会、全国市長会、日本医師会、連合総研等の各種委員のほか、小田原市生活保護行政のあり方検討会座長、朝日新聞論壇委員、毎日新聞時論フォーラム委員なども歴任。著書に『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波新書)、『いまこそ税と社会保障の話をしよう!』『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)ほか多数。2015年大佛次郎論壇賞、2016年慶應義塾賞を受賞。

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