ルーシー・ブラックマン事件、その真相とは? 著者のザ・タイムス東京支局長に聞く

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──本作において、なぜミステリー小説風という形式を取ったのでしょうか。

もちろんこの本はノンフィクションで、書かれていることは全て事実です。しかし、フィクションで用いられる物語の手法を強く意識しました。主にストーリーの構成に影響を与え、あるときはスローダウンし、あるときはペースを早め、読者へ重要な情報を与えるタイミングを遅らせることで、サスペンスや驚きを演出できます。

これらはフィクションで用いられるテクニックでもあります。 しかし同時に、これらは全て英語圏のジャーナリズムにおける伝統的な手法でもあるのです。 ジャーナリストによるこういったテクニックの利用には50年以上の歴史があります。私もその伝統に沿ってこの本を書きました。

ルーシー・ブラックマンとその家族の物語

──最後に、日本の読者へー言お願いいたします。

複数の読者が感想を口にし、私自身も執筆中に発見したこととして、確かに暗い題材についての本ですが、同時にこの本はルーシー・ブラックマンとその家族の物語でもあります。暴力的な情景が多く含まれながらも、愛の物語でもあります。日本の読者の皆様にもそれを見つけて欲しいと願っています。

インタビューを終えて
インタビュー中、一つ一つの質問に対してじっくり考えてから答え始めた姿が強く印象に残っている。圧倒的な取材量から想像される通りの真摯な人柄が、インタビューからも伝わってくることだろう。
驚かされたのは、ノンフィクションである本作へ物語手法を適用したことについて、さも当然といったニュアンスで答えていたことである。ストーリーテーリングを強く意識するということが、英国ジャーナリズムの伝統として根付いているのだろう。イギリスのノンフィクションが面白いと言われる理由は、こんなところにも隠されていたのかという気付きがあった。
一方、惜しくもインタビュー映像には収められなかったが、日本の翻訳者に対する高い評価も口にされていた。英語版と日本語版の両方を読んだ友人の中には、日本語版の方が面白かったと言う人もいたのだという。
2015年上半期を代表するノンフィクションと言っても過言ではない『黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実』。発売から二ヶ月にしてさまざまな話題を呼んでいるこの一冊を、未読の方はもちろん、既読の方も今一度読み返してはいかがだろうか。きっと新たな物語を見つけることができるはずだ。

 

内藤 順 HONZ編集長

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ないとう じゅん / Jun Naito

HONZ編集長。1975年2月4日生まれ、茨城県水戸市出身。早稲田大学理工学部数理科学科卒業。広告会社・営業職勤務。好きなジャンルは、サイエンスもの、スポーツもの、変なもの。好きな本屋は、丸善(丸の内)、東京堂書店(神田)。はまるツボは、対立する二つの概念のせめぎ合い、常識の問い直し、描かれる対象と視点に掛け算のあるもの。

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