ルーシー・ブラックマン事件、その真相とは? 著者のザ・タイムス東京支局長に聞く
──事件当時のメディアの報道について、印象に残ったことは何でしょうか。
イギリスのメディアにとっての大きな疑問は、例えばホステスとは本当のところ何なのか、売春なのか、違うのか。もちろん答えは「違う」なのですが...。そして日本の司法制度について。裁判の仕組みはイギリスのものと大きく異なりますので、説明が必要とされました。
日本のメディアはルーシー・ブラックマン本人に注目しました。例えば、それなりの中流家庭に生まれた若い女性が、なぜ自ら日本を訪れ、六本木のホステスとして働こうと思ったのか。日本では客室乗務員は憧れの職業として受け入れられており、多くの若い女性が夢見るものですがイギリスでは異なります。地位の低い職業だと考えられているのです。
イギリスと日本のメディアが共通して抱いた興味は六本木という場所の魅力についてでした。イギリス人にとっても、そして多くの日本人にとっても同様に、六本木は不思議なよそ者の場所だったのです。
この事件の特徴とは?
──ルーシー・ブラックマン事件以降にも、凄惨な事件が次々に起きています。それらと比べた時に、この事件の特徴はどこにあるのでしょうか。
ルーシー事件が突出しているのは、その複雑さです。たくさんの異なる物語が一つの事件に同居しています。まず第一にこれは若い女性に何が起きたのかというミステリーです。次にこれは彼女を長い時間をかけて探し続けた家族の物語です。 そしてルーシーとその行方を知る人物を捜索する警察の物語。最後に法廷ドラマでもあります。そこに大量の不可解さ、どんでん返し、おとり、行き詰まり、それに引き寄せられた不可思議な登場人物たちがいます。こういった複雑さが事件を際立たせているのです。
しかし最も大きな謎であり、私が多くの時間を費やしたのはもちろん織原城二についてです。 彼の生まれ、彼の人生、そしてなぜあのような人間になったのか。 織原の人生のさまざまな時点で彼を知っていた人々に話を訊くことができました。そして織原に非常に近い一人の人物に辿り着きました。
──事件が長期化した理由は、色々考えられると思います。報道のあり方、司法制度、警察組織、差別の問題、水商売特有のシステムなど...。一番大きな影響を与えたのは、何だったと思いますか。
司法制度、裁判の仕組みです。それがこの事件を長引かせました。それ以来、日本の裁判制度は大きく変わりました。裁判員の導入がそのきっかけです。私も新聞記事を書きましたが、リンゼイ・ホーカー殺人事件における市橋被告の裁判は、新しい制度のもと、数日で終わりました。その違いは際立っています。ルーシー事件の裁判は6年を要しましたが、こちらは6日と少しです。大きな進歩だと思います。
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