さらに重要なメカニズムとして見逃せないのは、金融緩和強化発動で始まった円高修正が解消されるという大きな動きによって、デフレ期待が和らぎ、消費や設備投資などの国内需要全体が底上げされる経路だ。
的外れな「円安進行=消費停滞」論
長期の円高トレンドが転換し、デフレが終焉したと人々が予想し始めたことが総需要の底上げをもたらす。その恩恵が中小企業や非製造業を含めて幅広く及んでいるということである。また、円高修正が株高をもたらし、企業や家計が保有する金融資産が膨らみ、企業や家計の支出行動が正常化したことが、非製造業の景況感改善につながっている。こうした一連の経路が太くなっていることも見逃せない。
先に紹介したとおり金融市場では、円安進行などによる必需品の価格上昇によって、消費センチメントの悪化が、今後の個人消費のリスクになる点を強調する議論をみかけるが、これは的外れな見方に思える。実際には、過去1年余りの個人消費の停滞は、消費増税による実質所得の落ち込みでほぼ説明可能である。
消費増税のショックを除けば、個人消費や設備投資などの国内需要は底堅く推移しているとみてよいだろう。円安がもたらす生活必需品の値上がり(=相対価格の変化)による負の影響よりも、円高修正が促したインフレ期待の高まりによって、総需要底上げや非製造業の景況感回復を促すメカニズムが働いているとみられる。
非製造業は、過去2年間のデフレ期待の和らぎによってもたらされた国内需要底上げの恩恵を、製造業よりも強く受けているのである。一方で、2000年代半ばと比べて、足元の製造業の景況感の改善が限定的なことの理由をつきつめるとするならば、新興国経済の減速によって、円安で価格競争力が戻っても、輸出の伸びが抑制されていることが影響しているのだろう。
円安が起きて必需品などの価格上昇が起きても、それが日本経済のリスクではなかったことは、過去2年に起きた業種間の格差がない幅広い企業景況感の改善が示している。脱デフレの途上にあり、完全雇用状況にもまだ距離がある日本においては、さらに円安が進んだとしても、日本経済全体でみればプラスになるだろう。
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