本当のところはどうなのだろうか。マスコミの報道では、円安が進む中で、国内回帰など製造業の復活を伝える記事も多いし、大企業を中心に製造業の利益は着実に伸びている。
日銀短観からわかる、非製造業の好調ぶり
だが、実際にはこれまでの円安による価格競争力の高まりが、大企業の製造業を中心に恩恵が及んでいるかといえば、そうではない。むしろ、一見円安による直接の恩恵が小さいようにみえる、国内の非製造業で、2012年末以降の過去2年半の景気回復局面において、製造業とほぼ同様の景況感の改善が起きているのだ。
日銀の短観による業況判断DI(ディフュージョンインデックス、各種判断を指数化したもの)の水準で、それを確認してみよう。2015年以降、失業率が3.5%前後まで改善しているが、同水準まで失業率が低下したのは、前回脱デフレの一歩手前まで進んだ2006~07年だった。
当時と2015年3月の足元で企業景況感を比較すると、大企業製造業のDIは+12と、前回(2006~07年平均)の+22ほどには改善していない。大幅に円安が進んだとされる割には、製造業の景況感は2000年代半ばほど良くなってはいないのである。
一方、2000年代半ばと比べて、足元の景況感の改善が目立つのは非製造業である。特に、中小企業非製造業においては、2006~07年の平均は-8とプラスにならなかった。つまり、景気が悪いと感じる企業が多かった。
だがアベノミクス発動後に円安・株高が進み、中小企業の非製造業の景況感はプラスに浮上。2014年4月の消費増税後に景況感は悪化を余儀なくされたが、2015年3月時点では+3と再び持ち直している。2000年代半ばの脱デフレ局面と比べて、アベノミクス発動後の景気復調局面において、製造業・非製造業の区分けがなく企業全体の景況感が総じて改善している特徴がある。
金融緩和強化による円安が景気回復をもたらす経路は、輸出企業の価格競争力だけに止まらないということだろう。まず、価格競争力という点では外国人旅行者の急増など示すインバウンド消費の恩恵を、一部の小売・サービスセクターが受けていることがわかり易い例である。
観光業などのサービス業などでも、円安が価格競争力を高める経路は非製造業においても働くことを意味する。外国人旅行者だけではない。日本人が、海外旅行の代わりに、地方の観光地に旅行に行くことも同様である。
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