今の日本の皮膚呼吸を伝える場所が東京--『トーキョー・ストレンジャー』を書いた姜尚中氏(東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授)に聞く
「都市とは自分の正体を目覚めさせてくれる場所」とする著者が、東京から日本を読み解く。
──なぜ東京論ですか。
東京は今の日本の皮膚呼吸をいちばん伝える場所。日本を考える大きな手掛かりになる。ある先人が、風俗は社会の皮膚呼吸だと言っている。皮膚呼吸を通じて社会の奥の部分で起きている変化を聞き取る。
そういう点では風俗に意味があるが、この本で31の、ある種の風俗現象を追って、いわば「重たい話」を読者との共鳴板に作り上げた。
──重たい話?
これまで東京論というのは結構あった。都市論、建築論、文化論……。帝都・東京となって以来の役割・機能を考現学的に現場に出向いて肌で感じたかった。
東京に住んでいても多くの人は、六本木が薄い地層であることを知らないし、原宿が重層的な場所であるのもわからない。一時期、首都圏メガロポリス構想がはやった。『東京ウォーカー』が創刊されたのもその頃。
今、経済が萎縮したデフレ下の東京を身の丈で見たらどうなるか、を探った。
──「東京には自由がない」で書き始めて、「東京はもっと自由になるべきだ」で書き終えています。
私自身、東京と東京的なるものにあこがれて、地方から上ってきた人間。東京は東京的なものを、フェイクであれ何であれ、作り出すことで成長してきた。
初めて1960年代末に来たとき、東京には自由があった。騒然としている中に。その東京というさまざまな桎梏(しっこく)を取り払ってくれる怪しげな世界には、何か沸き立つ、それは自由という言葉だけでは表し切れないエキサイティングさがあった。