今の日本の皮膚呼吸を伝える場所が東京--『トーキョー・ストレンジャー』を書いた姜尚中氏(東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授)に聞く
──東京はアジアの大都市のワン・オブ・ゼムになりますか。
かつて「四都物語」といわれたことがあった。ロンドン、ニューヨーク、フランクフルト、そして東京が「4大金融摩天楼」を形成するとたたえられた。
東京はアジアでも傑出した地位から滑り落ちていくのかどうか。むしろ金融で考えるべきは、上海にもシンガポールにもない、東京オリジナルの役割や機能ではないか。それが見えてくればいいが。
東京が人とマネーと情報、それに文化で引き付けることのできる、磁力ある都市だという確信をどこで作れるか。東京だけしか発信できないブランドを持つ都市になっていくことだ。それは文化産業を含めて。
金融にしても東京にしかないワンランク上の金融機能はありうる。中国人がなぜ東京に来たがるのかといえば、北京や上海にないものがあると思っているからだ。
ブランド化され、ソフィスティケートされた都市としての魅力を持っていれば、引き付けることができる。それにどう磨きをかけていくか。大きな意味での都市戦略が必要だろう。
──韓国には都市戦略があるようです。
韓国の都市は、インフラでは日本に簡単には勝てない。国全体で都市戦略を持っている。釜山はこう、ソウルはこうと、役割や機能を限定して、それを深掘りする戦略を敢行している。
今、東京は放っておいても人や情報が集まる。それは今のところ中国の各都市が逆立ちしたところで追いつけない。それこそパリに匹敵する、これは特別と思わせるブランド力を発信する東京でありたい。
──現状は、節電下の暗い東京になってしまいました。
この本の舞台は、3月11日以前の東京だった。
たとえば東京証券取引所も株価の電光表示が回転する光景は、当分戻らないのではないか。逆に本に収録した情景の多くが二度と再現できない、視覚情報のノスタルジーとして貴重になった。
この本は、不夜城の東京がおとぎ話の世界として意味を持つような、一つの歴史的文書になるかもしれない。