栗山英樹が「久米宏からのダメ出し」で学んだ事 「きれいにしゃべったところで、伝わらない」

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「ここですよ。ここで栗山さんが、『あのさ、これはさ』と言葉を出してしまうでしょう。そうすると、ますます相手はしゃべりにくくなるんですよ。言葉が返ってこなくても、この間を我慢できないのは、ありえない」

ありがたい時代だったのだと思います。そんなことまで、ディレクターが手取り足取り、教えてくれたのです。振り返れば僕は、本当に愛情を持った人たちに出会えていたのだと思います。

「野球をやっていたから、出てもらっているわけじゃない」

当時の『ニュースステーション』のメインキャスターは、久米宏さんでした。誰もが知っている日本一のキャスターです。番組に出演して1年ほど経ったとき、食事に誘われたのでした。

あまり出演者と食事に行ったりしない久米さんでしたが、共演していたキャスターの小宮悦子さんを誘い、さらにはディレクターもやってきました。

久米さんは、ズバッと言いました。

「栗山くん、言ってもいいかな」

「はい」

「野球をやっていたから、出てもらっているわけじゃないんだ。プロとして、キャスターをしてもらわないといけない」

「はい」

「人間がテレビを観て、どの瞬間に集中するか、わかってる?」

僕にはわかりませんでした。

「それはね、VTRからスタジオに降りた瞬間の1秒間。それが、まったく活かせてない」

小宮さんは、「久米さん、それを今の栗山くんに言ってもわからないでしょう」と助け船を出してくれました。

テレビはみんな真剣に観ているわけではないのです。だからVTRが終わってスタジオに切り替わった瞬間は、人間が気持ちをふと持っていかれる瞬間でもあります。

たしかに久米さんは、その瞬間にエンピツでテーブルを叩いたりしていました。VTRで報道されていたことへの怒りを示すにしても、なんとなくでは伝わらない。1秒間で示せるか、なのです。

現場では、皆さんはプロとして命がけで伝えようとしていました。その本気さを、僕は強烈に学ぶことになったのでした。

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