栗山英樹が「久米宏からのダメ出し」で学んだ事 「きれいにしゃべったところで、伝わらない」
こんなこともありました。日本シリーズの解説。1分間の映像について、原稿で解説していくのですが、一文字でも読み間違えると、映像の時間が足りなくなってしまうのです。それこそ「てにをは」を一つでも間違えると、入らなくなってしまう。
僕はよく言い間違いをしていました。ほとんど毎回間違えていました。
ところがあるとき、ほぼ完璧にしゃべれたことがありました。今日は完璧にできた、と思っていたら、反省会で久米さんから「いい?」と言われました。
「今日のは、いいとか、悪いとかじゃなくて、きちんとわかりやすくちゃんとしゃべっちゃうと、わかんないことがあるんだよなぁ」
「えっ?」と僕は思いました。
一緒に出ていたディレクターも、このときは後で「あれは無視していいですよ」と言いました。
でも、僕は無視できないと思いました。久米さんが何を言いたかったのかというと、言いたいことは、言葉だけで伝わるわけではない、ということです。
それこそ、野村克也さんのように、スタジオに来て映像を見て「うー」とか言っているだけで、言いたいことが伝わってしまったりする。野村さんが、そのプレーを非難していることは、テレビには伝わるのです。
実は、それこそが大事だったのです。丁寧にきれいにしゃべってしまうと、スーッと流れてしまう。観ている人たちには、何も残らない。うまくしゃべればいいわけではまったくないのです。なんという深い世界なのかと、このときに思ったのでした。
「物語」にして伝えれば、伝わる
しかし、後に監督になって、この学びが生きることになりました。何かを選手に伝えるとき、丁寧にきれいにしゃべったところで、伝わらないのです。「これはこうで、こうで、こうだよね」と言っても伝わらない。残らないのです。
僕は、物語にして伝えるようにしました。
「あるとき、こんな人がいて、こういう人に対して、こんなことをしたことがあった。これは、こんな苦しみを生んでしまった。実は今のお前は、こんなことをしていたのではないか……」
こんなふうに物語にしてあげれば、残るのです。単に言いたいことを言っているだけでは、伝わらないのです。
考えてみたら、久米さんは野球の世界で言えば長嶋茂雄さんや王貞治さんのような、超一流のキャスターでした。その人と一緒に番組に出させてもらい、その人から直接、アドバイスをもらえたというのは、厳しく、緊張感もありましたが、本当に幸運なことだったと思います。
そして、久米さんはそこまで考えていた。だから、プロ野球の世界でも、それ以上に考えなければいけないのではないか、という気づきにもなりました。
あの駆け出しのキャスター時代、本当に多くの人に支えてもらって、今はただただ、感謝しています。
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