「水素の町」を構想する福島・浪江町の理想と現実 震災復興の住民は割高コストを受け入れるのか

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町役場も国の補助金を活用して年間3億円弱の予算を組んで水素事業を推進する。公用車やスクールバス、スーパーの移動販売車のFC化や、使用電力の100%を再生可能エネルギーで賄う「RE100」の工業団地の実現にも目下、取り組んでいる。

町内にはあちこちに燃料電池がある(記者撮影)

2026年度にはFH2Rは運営主体を変え、商用化に入る方針が公表されている。いよいよ実証段階から、実用化の段階に移行することになる。

吉田町長は、「水素エネルギーの実用化では、コスト負担を含めて新たな考え方が必要になる。国のエネルギー政策全体の中で水素がどう活用され、制度が整えられていくのか、大きな関心を持って注視している」と話す。

水素社会の到来には消費者の意識醸成が不可欠

ただ、水素に限らず、クリーンエネルギーの事業化の段階では、確実な需要があるのか、あるいは供給体制の構築が先なのかで、堂々巡りの議論に陥りがちだ。

住友商事の市川氏は、「はじめから大規模に導入しようとすると、場所やコストの問題でハードルが高くなる。まずは小規模な地産地消のエネルギーからはじめて、住民の需要を喚起する。社会受容性のハードルを下げることで、一定の需要が期待できるようになる」と言う。

政府の水素基本戦略では、「水素・アンモニア政策、そして政策に基づく企業への支援等に対する国民理解を得ていくためには、国民、自治体への丁寧な情報提供や、継続的な対話の積み重ねが重要である」と記されている。

水素社会を本当に実現させるためには、産業界の需要拡大の努力はもちろん、割高なコストを受容できる最終消費者の意識醸成も不可欠だ。浪江町の取り組みは、日本に水素社会が定着するかどうかの大きな試金石になる。

森 創一郎 東洋経済 記者

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もり そういちろう / Soichiro Mori

1972年東京生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。出版社、雑誌社、フリー記者を経て2006年から北海道放送記者。2020年7月から東洋経済記者。

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