「医師の定員増」に韓国の医師が強く反発するワケ 「医師不足解消」か「選挙目当て」か、政府に大反発

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尹政権は医療界(大韓医師協会や全国医科大学教授協議会など)と話し合いを重ねてはいるが、「2000人増員」という看板を下ろす考えはないとしており、医師たちと真っ向から対立したままだ。病人やけが人がいわば人質となったような形で政権と医療界のチキンレースが続いている。

都市部と「ピ・アン・ソン」に医師が集中

尹政権が医学部の定員拡大を掲げたのは、韓国の医師不足、とりわけ地方での医師不足に対応するためだと説明している。確かに、2021年のデータで人口1000人あたりの医師の人数は2.6人で、OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均3.7人をだいぶ下回り、加盟国の中で下から3番目となっている。

韓国全体で医師が少ないところに、大きなアンバランスも加わり、状況を悪化させている。それは、医師たちが、①都市部と、②皮膚科・眼科・整形外科に偏っていて、地方の医療機関での勤務医や、救急医療・産婦人科・小児科といった緊急性の高い部門を志願する医師が大きく不足するようになっているのだ。

① でいうと、実は首都ソウルの人口1000人あたりの医師は3.9人でOECD平均を上回っている。しかし、これが例えば忠清北道になると1000人あたりの医師は1.9人。地域間で大きな格差が露呈する。

② は、「皮・眼・整」のハングル表記をとって「ピ・アン・ソン/피안성」という呼び方があると今回知ったのだが、要するに、その3つの科の医師になれば高収入が得られるので人気が高いというわけだ。眼科はともかく、皮膚科と整形外科が儲かるのは、外見を大事にする現代の韓国ならではといえる。

こうした現状で手をこまねいていては地方の医療が破綻する公算が大なので、尹政権としては医師の数を増やすことが必要だと主張する。それは、定員拡大の2000人分を地域別に振り分ける計画にも表れている。

ソウルにある医学部は、定員増加なし。ソウルに近い京畿道と仁川市は合計361人。残る1639人(全体の80%強)はそれ以外の地方大学が対象となる。つまり、地方の医学生を増やすことが地方での勤務医増加につながることを期待しているというわけだ。

世論調査を見ると、概ね7割くらいの人が現時点では政府の方針を支持している。医師の不足は数字で示されており、地方在住者はソウルや釜山などとの医療格差を実感することが珍しくないのであろう。

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