「医師の定員増」に韓国の医師が強く反発するワケ 「医師不足解消」か「選挙目当て」か、政府に大反発

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一方で、医師側の「選挙目当て」という主張が(事実だとしても)説得力に欠けるのは、前の文在寅政権も医学部の定員を拡大しようとしたものの、医師たちがやはりストを構えて断念させたという経緯があるためだ。

しかも、文政権時の攻防はコロナ禍の最中。パンデミックにもかかわらず、職場を放棄するとぶち上げたのだ。「選挙が近いから定員拡大は許されない」と言っても、ではいつならいいのだ? となってしまう。

こうした情勢を踏まえて、尹政権は強気の構えを崩していない。職場放棄の先陣を切った研修医たちに対しては、「病院に戻らなければ医師免許を停止する」と警告し、警察は医療法違反などの疑いで告発された大韓医師協会の事務所などを家宅捜索した。ストを打ち切るよう圧力を強める一手であろう。

強気の構えを崩さない尹政権

そして、医学部の「定員2000人増」を撤回する考えもないと繰り返し表明している。

一方、医療現場の混乱が総選挙の投票日まで続くようでは、逆に政権への逆風が吹く可能性もある。このチキンレースは政権側にとっても危険だ。

ただ、尹錫悦大統領はもともと政治的な計算よりも保守派のイデオロギーを重視しているように思える。

徴用工訴訟をめぐる日本との対立も、野党やメディアからどう叩かれようと日本に譲歩する解決策を打ち出したこと1つをとっても、「支持率よりも日本そしてアメリカとの関係を固めて北朝鮮への圧力強化」という保守派スタンス全開の結果だ。

また、歴代の保守派政権と同様、労働組合や今回のような「組合的な動き」は力で抑える傾向が強い。尹大統領は就任1年目に韓国で最も戦闘的な組合として名を轟かせる民主労総と全面対決し、運送業界の組合のストを北朝鮮の核開発に例えるような発言をして物議を醸した。

尹大統領に対する批判としてよく聞くのが、進歩派の人たちを北朝鮮に盲目的に従う「従北派」とみなして国民の分断を煽っている、ということ。今回の医療界との対立でも北朝鮮を引き合いに出すことを述べれば、その影響はどう転ぶかわからない。

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