「乳房」を手放した女性が直面、それぞれの事情 傷跡をカバーできる「ヨガウェア」を開発・販売

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人からいただく注文はありがたくかけがえないぶん、神経を研ぎ澄まして慎重に向き合わなくてはならない。また、オリジナル商品には十分に愛を注いで磨き上げなくてはならない。恵まれた状況なのだから、どちらにも手を抜かず成り立たせなくては……。

ふたつの仕事を大切に思うがゆえ、自分を顧みる暇はなくなった。疲労はピークに達し、日に日にストレスが募る。消耗し追い詰められていく彼女を、開業当時からそばにいた愛猫はじっと見ていた。

愛猫が教えてくれた予想外の乳がん

その日も、利香子さんは休むことなく働いていた。

すると突然、愛猫が彼女のパソコンに粗相をしたのだ。そんなことは、初めてだった。

「パソコンが使えないので、しかたなくスマホで仕事をすることにしました。

それで、ベッドに横になってスマホを触っていたら、ふと手のひらが胸のしこりに当たったんです。“え?”と思って脇も触ってみたら、脇にもコロンとしたものがあって……。そのとき初めて“乳がんかもしれない”と思ったんです」

それまで、胸に痛みや違和感はまったくなかった。すぐに病院に行くも、インドネシアでの処置は難しいと判断され、利香子さんは一時帰国を余儀なくされた。そして、病気の発覚と入れ替わるように、愛猫の姿が消えた。

「あの子は、うちのオフィスで生まれてずっと私が育ててきたんですけど……。大事なことを伝えて、ふっと姿を消してしまいました。必死に探し回りましたが、結局見つからなくて。でもあの粗相は、私へのメッセージだったと思うんです。無理矢理にでも私をパソコンから引き離して、“胸に触れてみて”と伝えてくれたんじゃないかと。そうでなければ、乳がんに気づくのがもっと遅れて、命にかかわっていたかもしれません」

愛猫の失踪に胸を痛めながら、利香子さんは闘病を始めた。

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