だが、侵攻への国民の支持確保という当面の目標を達成したプーチン氏には、その先にしっかり見据えている別の「大目標」がある。それは、西側民主主義陣営と全面的に対峙する強権軍事国家としての純化の道を歩み始めた「プーチン・ロシア」の国づくりの総仕上げをすることである。
筆者は2024年1月13日「2024年・ロシアのプーチン大統領はどこへ行く?」で、プーチン政権が2023年から、法律・教育・イデオロギー面などで、西側との全面対決に向けた国家改造に着手したことを報告した。
プーチン氏の次の任期は2024年5月から2030年までの6年間。さらに憲法規定によりさらにもう1期、2036年まで大統領の座に留まることができる。プーチン時代はまだ、あと12年続く可能性が高いのだ。
「ロシアの要塞化」という国家改造
この間、プーチン氏は、政治・社会面で米欧的価値観を排除する、「ロシアの要塞化」とも呼べる国家改造を完遂するつもりだ。
この国家改造に沿った新たな動きとして、筆者が注目しているのが、2024年2月末にプーチン氏が行った年次報告演説の一節だ。
演説の中でプーチン氏は、ロシア軍がウクライナ軍に一時主導権を握られながらも、態勢を立て直し、盛り返したことを高く評価。そのうえで、戦闘で功績を挙げた軍人がロシア社会における新たな「エリート」になるべきと述べ、今後新設される政府の人材養成プログラムの中で次代の幹部として育てていく考えを明らかにしたのだ。
ここで、プーチン氏の念頭にあるのは、軍人出身の優秀な人物を今後政府や地方自治体などのロシアの統治機構の中で、積極的に登用することだろう。
ではなぜプーチン氏は、このような新方針をこのタイミングで表明したのか。その背景には、2023年6月に起きたロシアの民間軍事会社ワグネルの指導者プリコジン氏による武力反乱事件があるとみる。
ロシア南部ロストフ州で始まったワグネルの武装部隊による進軍は誰にも阻まれず、モスクワ近郊まですんなりと来ることができた。もちろん、プリゴジンの進軍をすぐに止められなかった責任は、基本的には軍部にあるのだろう。
しかし、プーチン氏からすれば、現在の地方自治体の首長は自分への忠誠心も行動力も足らず、今後再び、何らかの反乱事件や社会的騒乱が起きた際に頼りにならないと危惧したのではないか。
なぜ危惧したのか。現在、ロシアの地方知事の半数以上が、セルゲイ・キリエンコ大統領府第1副長官が創設した「知事の学校」と呼ばれる知事養成プログラムの出身者で占められている。
ウクライナ政策や内政全般を仕切っている大物キリエンコ氏と似た、若き「能吏系実務者」ばかりで、とても修羅場への対応で力を発揮できるタイプではない。
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