圧勝のプーチン、ウクライナ最前線の緊迫の日常 日本人写真家が見た、ウクライナ人医師の活動

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「医師が来ると聞いて、飛んできた」と話すのは元警察官のワディム(69歳)。不眠症に悩む妻のため、エレナに薬を処方してもらった。毎日5、6発、隣の村にロケットが飛んでくる。決して安住できる場所ではないが、留守宅に置いてあった農機具が盗難されたため、避難先から戻ってきたという。

インフラ施設が破壊され電気、ガス、水道が途絶えた村に残る理由は様々だ。「高齢のため長距離移動が心配だ」「避難先での滞在費が工面できない」という人も多い。開戦後、診療所も薬局も閉鎖したディブロバ村の住民は、主治医から処方されていた薬を書いた紙を手に、順番を待っていた。

住民と対話しながら薬を処方するエレナ医師。3月8日 ドネツク州ディブロバ(写真:筆者撮影)

ロシア軍の攻撃ドローンを警戒しながら、テンポ良く診察を済ませるエレナ。終わりの見えない戦争について尋ねると、こう答えた。

「先週オデッサが砲撃を受けたでしょ。実は、私の兄の友人もそこで亡くなりました。私には軍事的なことはわかりませんが、いたたまれない思いでいます」

開戦から2年、ウクライナ政府は従軍医療者に対する対応を重視してきた。2022年8月には、負傷兵の治療をする女性看護師のために、軽量の防弾ベスト50万着を供給すると発表した。しかし、前線の街で医療を必要とする住民に向けての政策を耳にすることはない。エレナが知る限り、知り合いの医師数人が自主的に足を運んだケースがあっただけだという。

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