圧勝のプーチン、ウクライナ最前線の緊迫の日常 日本人写真家が見た、ウクライナ人医師の活動

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医療支援の活動をはじめたボランティアのビタリー。23年10月2日 ドネツク州シベルスク(写真:筆者撮影)

「前線へ行かないか」とエレナに声をかけたのは、ハリコフ在住のボランティア、ビタリーだ。ビタリーは筆者と同じ人道支援団体、マリウポリ聖職者大隊に所属している。昨年、オランダへ避難している薬剤師の妻に協力を仰ぎ、医療支援の計画を立てた。海外からも資金を募り、薬を揃えたものの、いざ現地で住民に向き合うと苦労の連続だった。そこで、幼なじみのエレナに白羽の矢を立てたのだ。

「見ての通り、俺は即断即決の行動派。逆にエレナは慎重すぎるくらい慎重だ。だから、『来週行こう!』と直前に連絡をしてみたのさ」と、ビタリーは振り返る。

私たちを乗せた車は予定より2時間遅れてディブロバ村に着いた。開戦1年目はロシア軍に占領されていたため、いたるところに地雷が埋められている。地雷撤去の作業中、「ズドーン」という爆音とともに黒煙があがることもある。これまでロシア軍の砲撃で亡くなった住民は10人。いまも14キロ先にロシア軍の支配地域が迫っている。

ロシア軍の砲撃で破壊された民家。着弾による煙が遠くに見える。1月20日、バフムート北部方面(写真:筆者撮影)

バスの停留所に住民が集まっていた。人口500人ほどだったディブロバ村に残るのは現在72人。いずれも中高齢者だ。

「薬を持ってきたので、ここに並んでください」とビタリーが声をかける。2000ドルの募金で調達した150種類ほどの薬を前に、長い列ができる。

つえをついた老婆がエレナにこう訴えた。

「最近、咳が止まらなくなって。足の関節も痛くて辛いんです」

夫と死別し、一人で暮らすアレクサンドラ(80歳)は心臓に持病があるという。エレナはクリアケースに仕分けした薬の中から数種類の錠剤を選び、「これを飲んでみてください」と言って、手渡した。

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