地デジ化で加速するテレビ局“負の連鎖”
7月24日の地上デジタル放送への完全移行が目前となった。アナログ放送の画面にはカウントダウンが常時表示され、総務省やテレビ局などの関係者は追い込みに躍起になっている。
テレビ局の最大の不安は「テレビ離れ」の加速だ。地デジ化は電波の有効利用を目的とした国策。移行後に空く電波は、携帯電話や防災など次世代通信へ割り振られる予定で、テレビ局の収益にはつながらない。むしろこれを機に、テレビを見ない人が増える懸念が強まっている。
野村総合研究所の山口毅主任コンサルタントは、「地デジ化後はテレビ視聴世帯数が100万減少する可能性がある」と指摘する。この数字は全国5000万世帯の2%に相当。単純に考えると、単価が上がらなければ、2%分の広告収入が消える計算だ。
すでに予兆はある。野村総研が2010年に1年前と比較したメディアの接触時間調査によると、接触時間が減った人の割合が最も多いのが「地上波放送のリアルタイム視聴」で26%。一方、増えた人の割合が最も多いのが「パソコンでのネット利用」で35%と、新旧メディアの勢いの差は歴然だ。特にテレビ局がコアターゲットとする10代と20代でテレビ離れが進む。
バラエティ特番を濫発
ただでさえ、テレビ局の足元の経営環境は厳しい。
「ついに昨日、19時台の民放は全局、視聴率が1ケタになった(関東地区)」。6月中旬、テレビ朝日の人気プロデューサーがツイッターでつぶやいた発言に対し、「当然だ」などの声が上がった。19時台はゴールデンタイム(19~22時)のスタートを飾る花形であり、これまでは考えられなかった出来事だ。
テレビ広告料金は多くの場合、視聴率に連動して決まる。広告収入が伸びない中、各局とも制作費が安いバラエティ番組を強化。特に1時間を超えるスペシャル番組を濫発する。別々の番組を作るより効率がよく、「放送時間が2倍でも制作費は2倍にならない」(関係者)からだ。が、飽きた視聴者が離れ、視聴率低迷で収入下落、再び制作費削減に走り、番組が低質・同質化する悪循環に陥っている。
今秋には、BS局への新規参入があるほか、米大手テレビ局3社が運営する巨大ネットメディア「Hulu(フールー)」の日本上陸もささやかれるなど、逆風は続く。
3月に死去した業界の重鎮、日本テレビ放送網の氏家齊一郎会長(当時)は2月の本誌インタビューで「業界は7~8年で5000億円近く売り上げを減らした。1局分が消えた計算だ。生き残るには弱者からパイを奪うしかない」と指摘した。今後は泥沼の競争が待ち構えている。
(撮影:吉野純司 =週刊東洋経済2011年7月23日号)
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