「妊娠したら辞めて」教育委員会のマタハラを"証言" 都のSC大量雇い止めは「女性差別の問題」だ

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雇い止め撤回や更新上限の撤廃などを求める要望書とオンライン署名を、都教委の石毛朋充勤労課長(左)に手渡した。SCの1人は「今日は(大勢の)仲間のために、心理職の未来のためにここに来ました」と伝えた=3月5日(筆者撮影)

SCは女性の割合が高いとされる。SCたちが加入する東京公務公共一般労働組合「心理職ユニオン」が今回の大量雇い止めを受け、X(旧Twitter)とはがきの郵送によるアンケート調査(回答数728件)を実施したところ、全体の76%が女性だった。総務省の調査でも、非正規公務員である会計年度任用職員は8割が女性。都のSCに女性が占める割合とほぼ同じである。

非正規公務員の賃金水準の低さや身分の不安定さはこれまでも社会問題となってきた。一方で会計年度任用職員制度そのものには、任用方法や賃金水準、休暇制度において直接的な男女間格差はない。しかし、この制度を“平等”に運用した結果、不利益を被るのは圧倒的に女性である。これを「間接差別」と呼ぶ。

「妊娠したら辞めていただきます」という言葉はマタニティハラスメントであると同時に、都のSCの大量雇い止めは女性差別、間接差別の問題でもある。

有給休暇を活用して出産した

こうしたプレッシャーの中、出産を試みたSCもいる。

勤続13年の小林理恵さん(仮名、30代)は4歳と7歳の子どもを育てている。都教委が毎年開く連絡会で「『妊娠したら辞めてください』という指示はたしかにありました」としたうえで、「その理由として『みなさんの仕事は妊娠出産して、その間を誰か別の人に任せ、また戻ってくることができるような替えのきくものではないから』という説明をされました」と話す。

それでも、小林さんが1人目の子どもを妊娠したとき、真っ先に思ったことは「退職はしたくない」。小林さんにとってSCが大切な仕事であると同時に、妊娠を理由に辞めるとSCそのものへの信頼度が下がってしまうような気がしたからだという。

当時の勤務校は2校。このころは「妊娠出産休暇」も認められていなかった。このため、それぞれの学校の管理職らと相談して、溜まっていた有給休暇を活用すると同時に、週1回のペースだった出勤を出産の前後にまとめることで、なんとか最低限の“出産休暇”をつくり出した。

2人目のときは初産以上に不安だったという。出産前、最後の勤務の数日前に出産の兆しである「おしるし」があったのだ。しかし、すでにぎりぎりスケジュールで出勤調整をしているので休むわけにはいかない。小林さんは「どちらの出産も綱渡りでした。特に2人目は、学校で陣痛が来たらどうしよう、万が一のことがあったら後悔してもしきれないと思うと、あのときは本当に怖かったです」と打ち明ける。

もともとは教員を目指していたという小林さんは、教育実習先でいじめに遭っている子どもと出会ったことで公立学校のSCを志すようになる。資格取得後に働いた福祉施設で、多くのアルコール依存症の人たちとかかわる中「子どものころにもっとよい出会いがあれば、違った人生があったのでは」と感じたことで、その意思はより強くなったという。

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