ゴールデンカムイの「カムイ」はいったい何なのか 大ヒット漫画を通して、アイヌ文化を分析する

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家は人間を雨風から守ってくれますし、臼は杵と協力して穀物を脱穀したり粉にしたりしてくれる力を持っています。だからカムイであり、昔の人たちはそれらを人間と同じように精神を持ったものとして扱いました。家の屋根が飛びそうになるほど強い大風が吹く時には、臼を紐で縛って家の梁(はり)から吊り下げ、少量の穀物を臼に入れて搗(つ)く真似をしながら、こんな言葉を唱えます。

家の奥さん、気をつけなさい! 自分を守りなさい! 臼の奥さん、異変をお知らせしますよ!

「家の奥さん」というと一家の主婦みたいに聞こえるかもしれませんが、これはチセ カッケマッ「家・奥さん」の訳で、家は女性のカムイと考えられており、家に向かって「奥さん」と呼びかけているのです。風に吹き飛ばされないように、自分の身を護るように、家に向かって警告しているわけです。

臼を梁から吊り下げるのは、昔の家は屋根がただ柱の上に乗せてあるだけですので、地震や大風で屋根がずり落ちてしまわないように、重しをかけるためです。臼もまた女性のカムイで、臼を搗く杵の方は男性のカムイと考えます。穀物を入れて搗くのは臼に腹ごしらえをさせているということで、それで臼に力をつけて屋根が飛ばないように押さえてくれということをお願いしているわけです。

カムイ扱いされない動物もいた

このようにあらゆるものを人間と同じような存在として扱うというのが、アイヌの伝統的な世界観の根源にあるものです。

ただし、カムイとみなす条件として、もうひとつ「精神・意志を持って」活動するということを挙げました。11巻109話でアシㇼパは鹿についてこう語っています。「私たちが住む西の方は鹿をカムイ扱いしないけど、東はあんまり獲れなかったから昔から鹿を大切に送る儀式もする」。

ということで、動物であってもカムイとみなされないものもいたということです。実は鹿は自分の意志に基づいて活動しているようには見えないので、地域によってはカムイ扱いされないのです。

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