テレビ局決算で見えた「楽しくなければ…」の終焉 若手が勝手に作ればテレビは自然に面白くなる
日本テレビは圧倒的トップである分、CM収入の減少額も大きい。それを食い止めるべく、大きな策を打ち出した。11月に発表したARM(Ad Reach Max)プラットフォームだ。
テレビCMはその買い方や使い勝手を最近はネット広告と比べられ、一部の広告主から不便だと言われていた。その不満をいち早く捉えて、テレビCMセールスにネット広告の良さを取り入れる考え方だ。
例えば、テレビCMは放送前「中4日」のタイミングでCM素材を納品するのが常識だった。ARMでは、直前の納品でも対応していくという。天気に合わせてCMを出稿したり、スポーツ中継の結果に対応したCMも可能になるだろう。
さらに、視聴率をベースにしたGRPを指標に取引しているテレビCMを、ネット広告と同じインプレッションベースの取引も可能にする。これにより、TVerやYouTubeで流すCMと、テレビCMを統合して発注できる。広告主によっては、「とにかくF1にCMを多く見せられれば、テレビでもネットでもかまわない」という考え方もある。ARMで、そんなニーズにも対応していく。
2024年度末、つまり来年春から稼働させる予定で、ずいぶん早い発表だが先んじて世に知らせることで徐々に周知を図り、導入するテレビ局も増やしていく考えだ。2月2日には、東海地区の系列局、中京テレビが早くも名乗りを挙げた。
テレビCMの取引を変える考えは、前々から業界内で議論としてはあったが、変えるハードルが高いうえに旧来の手法にこだわる声も大きく、進まなかった。ここへ来てテレビビジネスの厳しさが増したため、具体化の流れができた。ただ、これによって放送収入の減少が食い止められるかは、やってみないとわからない。言えるのは、これまではやってみないとわからないことはやらなかった業界が、やってみる方向に転じているということだろう。
「楽しくなければテレビじゃない」はもう通用しない
さて、気になるのがフジテレビだ。放送収入が9.4%の減少と、もっとも大きい。フジテレビが特に放送収入を落とす傾向が続き、いつのまにか民放4位にポジションが固定した。
昨年秋の改編では「やっぱり、楽しくなければテレビじゃない」をスローガンに掲げた。これを聞いた時、私は思った。「そこに戻っちゃダメでしょう」と。
そんな中、年明けに胸が苦しくなるような事件が続けて起こった。松本人志の性加害疑惑、そしてドラマの原作者の死。関係づけるのは当事者に失礼と思いつつ、私には関係があるように感じられてならない。
テレビはもう「楽しくなければ」ではいけないのではないか。
フジテレビは70年代まで際立った存在ではなかったのが、80年代に制作の外注主義をやめて社内の若手たちが好き勝手に番組づくりを始めたら、突然トップの座に躍り出た。自由にのびのび作る番組はすべて当たり、当時若者だった私に「ぼくらのテレビ」と思わせてくれた。
この時、登場したスローガンが「楽しくなければテレビじゃない」だった。映画業界から電気紙芝居と揶揄されたのを見返すためにまっとうなものづくりに真面目に取り組んでいたテレビ業界に、あっけらかんと宣言したのだ。楽しければいいじゃないかと。
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