たとえていえば、水平を保っているてんびんで、一方の重りを取り除いたところ、バランスが崩れた。重りを元に戻せばよいのだが、そうせずに、「もう一方の重りも取り除け」と言っているようなものである。
もっとも、日本の法人所得課税の負担が一般にいわれるほど重いかどうかについては、慎重な検討が必要だ。次の諸点に留意する必要がある。
1.法人税法上の課税所得は企業会計上の所得より圧縮されている。したがって、会計上の所得に対する法人課税の負担は、日本でもそれほど重くない。企業によっては負担率が20%台のところも少なくない。
2.日本では赤字法人が多いため、そもそも法人税の負担を負っていない法人が多い。実際、GDPに対する法人所得課税の比率を見ると、日本は中国や韓国よりも低い。
したがって、09年改正によって税制上は海外生産が有利になったが、それが現実の海外移転にどの程度の影響を与えたかは不明である。海外移転は、09年改正以降においても、主として賃金コストの内外差によって進展していると考えるのが自然だろう。
研究開発が空洞化するおそれ
09年改正によって、海外現地法人は日本の本社への配当をどの程度増やしただろうか? 各年度の純利益と内部留保の推移は、グラフに示すとおりだ。全産業で見れば、内部留保の純利益に対する比率は、08年の40・4%から09年の38・2%に低下した。しかし、この差はさほど大きくない。製造業だけを見ると、この比率は50・2%から53・9%へと、むしろ上昇している。