わざわざ税制改正して移転を促進している
ところで、この制度には問題があるとされた。それは、日本での課税が発生するのは、海外の子会社が日本の親会社に対して配当をした場合だけだからである。海外の子会社の所得が配当されずに留保金としてとどまっているかぎり、日本の法人税の課税は発生しない。このため、「海外での利益の多くが、配当として日本の親会社には戻らず、海外に留保されてしまう」といわれた。
そこで、2009年の改正において、海外子会社からの配当を非課税とする措置を取った。具体的には次のとおりだ。
1.海外子会社からの配当の95%は益金不参入
2.間接外国税額控除制度は廃止
これによって、日本企業が海外で得た利益を日本に還流させ、国内での設備投資や研究開発投資を活発化し、さらには雇用維持や個人消費などの内需を増加させるとしたのである。
このような効果が実際にあったかどうかは、後述のとおり疑問である。ただし、この改革は明白で直接な結果をもたらした。
それは、外国との法人税率の差が、企業の海外移転に影響するようになったことである。国内で生産して利益を出せば国内の法人税が課されるが、海外子会社で生産して利益を配当で戻せば、外国の法人税だけで済むからだ。生産国の法人税率が低ければ、法人税を節約できる。
本来の税制ではこうした影響はなかったにもかかわらず、わざわざ税制を歪めて、税率の差が海外移転を促進するようにしたのである。
だから、仮に海外移転が望ましくないのであれば、税制を本来の姿に戻せばよい。そうすれば、こうした問題はなくなるはずだ。しかし、そうせずに、今度は「国内の法人税率を引き下げよ」ということになってきたのである。「日本の法人税負担が重いから海外移転が進む。だから国内の税率を低めよ」とは、これ以降、盛んになった議論である。これはまことに奇妙なことだ。