「イギリス郵便局冤罪事件」に揺れる富士通の苦悩 問題子会社は「現地任せ」で統治不全の声も
前述の経済官庁幹部が指摘したように、今回の事件は、子会社に対する富士通のガバナンス不全を露呈させたと言える。
ホライゾンの提供当初から欠陥を認識していたとの証言も飛び出す中で、富士通が親会社として実態をきちんと把握できていたかは疑問が残る。
富士通の元首脳は「海外事業は、現地で完結されてしかるべきだと考えていた。(イギリスも)完全に現地の人に任せていて、グローバルにある拠点の中の1つという認識だった。『ホライゾン』というシステムすら知らなかったし、今の経営陣は過去のことを何もわからないのではないか」と打ち明ける。
磯部CFOは会見で、「過去に起きたことを今一度しっかりと分析、反省しながら、ガバナンス強化は必要だと思う」と述べており、ガバナンス体制の見直しも求められることになりそうだ。
補償めぐり株主と板挟みになる可能性も
一方、郵便局長らへの補償をめぐっては、富士通が「数億ポンド」(数百億円)の負担を強いられる可能性もあるとの現地報道も飛び交う。
富士通側が言及した「道義的」な補償は現状、これから具体的にどのような形に帰着していくかは見通しにくい。磯部CFOも、「調査の進捗を踏まえつつ、イギリス政府や関係者と対話しながら適切に取り組んでいく。現時点で行く先は、まだ見極めきれていない」と述べるにとどめた。
責任の「道義性」のあいまいさが今後、問題を複雑にするとの見方もある。
大和証券の上野氏は「システムトラブルは完全には取り除けず、日本でもグローバルでも、一般的にシステムトラブルによる損害は(ベンダー側にとって)補償の対象にはならない」と指摘したうえで、「法的責任を問いにくい中で、『道義的責任に基づく補償』の根拠をロジカルに説明できないのであれば、株主訴訟に発展する可能性もある」と説明する。
補償を求めるイギリス政府と、株主との板挟みになり、苦しい立場に追い込まれる未来もありうるというわけだ。
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