川崎重工は「世界のヘリメーカー」になれるか UH-Xが日本のヘリ産業の将来を決める

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富士重工はすでにUH-1Jの生産が終わり、戦闘ヘリAH-64Dの生産が13機で終了したために、UH-X商戦で敗れれば生産するヘリがない。後はヘリに関して言えば自衛隊向けのUH-1シリーズの保守の仕事がある程度だ。しかも同社が陸自向けに開発した無人ヘリ、FFOSおよびFFRSは筆者が何度も述べているように、東日本大震災という「実戦」において信頼性が疑われて投入されなかった。性能、信頼性の面から防衛省も追加調達をあきらめている。

UH-Xの契約を川重が獲得すれば、自動的に富士重工はヘリメーカーではなくなり、日本のヘリメーカーは川重と三菱重工の2社体制になる。

三菱重工はUH-60シリーズ1機種をラインセンス生産としているに過ぎない。しかも振動制御などの技術的な面での能力に疑問がある。三菱が米国のSH-60に独自の改良を加えたSH-60Kは振動が多く、対潜作戦に支障を起こすほどだ。当初は搭載された対戦用のシステムが振動のためにダウンしたほどだ。また速度も遅い。S-92の生産には参加しているものの比率は高くないうえ、販売機数も少ない。

海自の次期対潜哨戒ヘリは競争入札になるが、関係者に取材する限り事実上、三菱重工が提案するSH-60Jの改良型を採用することが決まっているという(もし、これが事実ならばUH-X同様に官製談合なのだが)。海自の新哨戒ヘリを三菱重工が受注するならば同社のヘリ部門は息を長らえるが、UH-60シリーズの一本足打法であり、基本的に長期的にみてジリ貧である。

しかも同社の航空部門は、今後好むと好まざるとにかかわらず、これから生産が本格化するMRJに経営資源を集中する必要がある。同社は空自のF-35プログラムでも組み立てだけは担当するが、当初予定されていた主翼、胴体後部などのコンポーネントの生産は辞退している。これが10年前の同社であれば辞退などしなかっただろう。同社が参加を見送ったのはかなりの設備投資を強いられるからであり、その分の経営資源をMRJにつぎ込む必要があるからだろう。

世界で戦えるヘリ産業を生み出せるか

国内外の非軍事市場、そして国外の軍事市場に参入するためにはメーカーを再編し、事業規模の拡大と効率化が不可欠だ。繰り返しになるが、現在は3社で同じような開発費を投じている。日本全体で投資できる開発費用を3分の1ずつ使って、各社少ない予算で同じような研究開発を行っている。開発者の層も薄い。これでは世界の市場で戦っていけない。のみならず、将来、防衛省向けの機体の開発やライセンス生産も難しくなるだろう。仮に維持できても多額の税金を投入することになる。

先に筆者は川重に期待していると述べたが、トップメーカーである川重に、三菱重工がMRJを立ち上げたのと同じように、自社のヘリビジネスを自立したビジネスとして育てて行こうという明確な意志とビジョンをもっているかがカギになる。それがなく「国営企業体質」が抜けないのであればヘリビジネスの自立化は難しい。

川崎重工がUH-Xの契約を獲得するならば、業界再編を見据えた自社のヘリ部門のビジネスプランを株主そして納税者に示していったらどうだろうか。また防衛省、経産省そして政府も日本のヘリ産業の行く末のビジョンを描き、航空産業振興の長期政策を策定するチャンスともいえる。世界の大手企業との差は大きく開いている。今回のUH-X選定は、日本のヘリ産業が生き残る最後のチャンスになる可能性が高い。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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