川崎重工は「世界のヘリメーカー」になれるか UH-Xが日本のヘリ産業の将来を決める

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最近でも、そうした事例がある。空自は救難ヘリUH-60Jの後継として、欧州2社の案を退け、三菱重工の提案したUH-60Jの改良型を採用した。空幕はライフ・サイクル・コストを1900億円とし、その半分を機体調達予算と想定していた。調達は40機なので、一機あたりの調達単価は23.75億円となる。だが調達から数年たつが、平均調達単価は約40億円にもなる。つまり当初計画の1.68倍である。この点について空幕広報室に質問すると、「劇的に調達単価を下げる方策はありません。頑張ります」と回答している。これを空幕長も是とした。

コスト計算がおかしい

空自の現用救難機UH-60Jも同様に、当初計画では22億円だった調達単価が後に約50億~60億円に高騰している。常識的に考えれば、これの改良型の単価が23.75億円に収まるはずがない。空幕はそれでも三菱重工案を選定しており、陸自のUH-X同様に官製談合の可能性を調査すべき事案だろう。しかし、問題視されることはなかった。

防衛省の調達計画は、米国防総省のように開発費が25パーセントを超えると自動的に開発が中止になるとか、調達単価が一定額を超えた場合には調達が中止になる、といったシステムがない。開発費や調達コストが高騰した場合、調達数をたとえば100機から80機に減らすという決まりもない。つまりUH-Xの価格上昇は、なし崩し的に容認される可能性が高かったのだ。

陸幕は、UH-Xが民間機として国内外での販売もされることを視野に入れるとしていたが、これも空手形だ。陸幕は開発と同時に型式証明や耐空証明をとる作業を想定していなかった。これは多額のコストがかかるためだが、開発後に改めて型式証明や耐空証明をとるならば、その何倍ものコストや手間がかかる。つまり陸幕は民間で売ることを本気では考えていなかったといえるのだ。

ここからは、仕切り直し後のUH-Xについて考えていこう。

川崎重工もさすがに今回はOH-1改良案を引っ込め、提案の内容を変えている。エアバスヘリコプターと組んで、エアバスヘリが新型開発する4.5トンクラスの民間用ヘリ、X9をベースにした機体を共同開発する。この民間用のX9に光学電子センサーなどを搭載し、軍用型するものだ。

対して富士重工はUH-1の双発型のベル412EPをベースに陸自向けに仕様変更して提案している。三菱重工は提案していないため、川重案と富士重工案の一騎打ちとなる。

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